第九十六話「目処」
相手の打球を見極め、最適な返球方法を選び、実行する。
どんなラリーでもこの流れは変わらない。
とは言え、このシンプルな流れを常に実現出来るほど、卓球は簡単なスポーツではない。
(巻き込み!)
志織は巻き込みサーブで逆横回転をかけてきた。
左利きの場合、逆横回転は時計回り。
左利きとの対戦では、横回転をかけられるとこれまでと逆の対応を求められる。
紅は巻き込みサーブである事だけに囚われず、ラケットの動き方で回転方向を判断する。
(バックに)
回転によって流される事を見越してバック側へ打つ。
もちろん志織は既に体勢を立て直しており、ストレートにバックドライブを放った。
(下がったか)
紅は後ろに下がった。
ラケットを引いてから、切るように擦る。
(カットだ!)
真珠は紅のカットを初めて見た。
ノートに記された技だけでなく、基礎的な技術もしっかり習得していた。
バックドライブの上回転を下回転に塗り替える。
(ならば短く)
志織は短くネット際に落とす。
紅は飛びついて高めに打ち上げた。
「ふっ!」
チャンスボールは当然スマッシュ。
(来た!)
紅はこれを予想していた。
いや、予想と言うより予定していた。
(スマッシュなら回転は関係無い!)
スマッシュは威力はあるが回転はそれほど無い。
志織に攻撃させる代わりに、自らの強みを捨てさせたのだ。
紅はラケットを立てて跳ね返した。
「ツー、ワン」
回転を読めないのなら、回転をかけさせなければ良い。
あえて攻撃させるのは賭けではあったが、紅は無事成功させた。
「おおー」
「よく返したね」
その後は、一進一退の展開となった。
技を使い過ぎないように攻める紅。
脚への負担のある動きを増やしリミッターを解除していく志織。
見ている克磨は気が休まらなかった。
(皿井さんの脚もそろそろ限界のはずだ。とは言っても、持久戦が出来るほど紅の体力も残ってないか)
現在六対六で互角。
次は紅のサーブから。
(あと五点。何とか取れるはず)
紅は勝利への目処が立った。
後は迷わず実行するだけ。
(失敗したら足りなくなる。全部成功させなくちゃ)




