第九十五話「計画」
「マッチポイントだね」
二ゲーム目は現在、三対十で紅のマッチポイント。
紅がこのゲームを取るのはまず間違いないだろう。
(点を取るのは大前提として、いかに長引かせずに決めるか、だな)
出し惜しみをすればかえって自分の手札を減らす事になる。
思い切りが大事だ。
「はっ!」
志織のロングサーブは紅のバック側へ向かう。
紅は右足を横に出してリーチを伸ばす。
バックハンドでボールを捉えつつ、打ちながら右足で床を蹴って身体を再び左へ戻す。
(『ひっぱりショット』!)
左への伸びが大きいバックハンドでの強打。
志織はやむを得ず大きく横に跳んで何とか返す。
(上がった!)
紅の狙い通り、チャンスボールが返ってきた。
ミドルへのやや高めの球を回り込んで叩く。
気持ち良い音が響いた。
「よし!」
無事、紅が二ゲーム目を取った。
「これでイーブンだな」
「次は紅のサーブから。流れを掴みたいですね」
サーブは唯一、相手の影響を受けない攻撃手段。
その後の展開も組み立てやすいので、サーブ権がある方が基本的には有利だ。
(『クイックディール』!)
紅は隙の無いバックサーブでネット際に落とす。
志織は普通にツッツいた。
(打てる!)
回り込んで、ドライブの体勢に入る。
しかし、バウンドの方向が予想外だった。
ネット側に向かって遠ざかるように跳ね、紅の間合いから逃げていく。
「つっ!?」
ラケットの端に当たってボールは明後日の方向に飛んでいってしまった。
「ラブ、ワン」
(バウンドするまで分からなかった、、、)
フォームもラケットの角度も通常のツッツキとほぼ変わらない。
方向を司るスペシャリストが本気で打ち分ければ、バウンドの瞬間までボールの跳ね方は分からない。
(厄介だな。簡単には打てないぞ)
見てから打つのでは大技は使えない。
予測が困難である以上、見てから素早く動かなければならない。
もちろん、その先には得点を決めるという事も求められる。
(またツッツキ!)
似たような展開、似たようなツッツキ。
紅はバウンドしてすぐの球をツッツく。
(確かに、バウンドの直後なら跳ね方を気にせず打てる)
志織の表情は変わらない。
(だが、回転が無くなった訳じゃないんだ)
紅が返した球は、回転の影響で右に曲がった。
そこには、待ち構えていた志織のフォアハンド。
「ラブ、ツー」
(二連続失点。しかもここから皿井さんのサーブ。悪い流れだ)
克磨は公正な審判でありつつも、内心では完全に紅の味方だ。
昼砂の金城蘭華に紅を当てる計画は、紅が志織に勝てるくらいの実力があるという前提の上に成り立っている。
紅が勝てなければその計画は実行出来ない。
(とにかくチャレンジだよ、紅ちゃん)




