第九十二話「突き出した」
「サーブはどうする?選んでくれ」
じゃんけんはせず、最初から紅に選択権を与えた。
「じゃあサーブで」
審判の克磨からボールを受け取り、構えに入る。
バック側でラケットを寝かせる。
いわゆるバックサーブだ。
(『クイックディール』!)
この技はコンパクトなバックサーブ。
サーブ後の隙が非常に少なく、相手のあらゆる打球に反応出来る。
(いきなり新技!気合い入ってる!)
得点係に立候補していたのは真珠。
試合を間近で見られるからだ。
(まずは小手調べだ)
志織はミドルへのサーブに対していきなりドライブを放つ。
捻るような動きで、回転方向を横にずらした。
紅はバックハンドで対応した。
その際、かかっている横回転を計算に入れてラケットはやや横に傾けている。
フォア側のサイドラインギリギリに入った。
(流石にこの程度なら対応するか)
お互い冷静にラリーを続ける。
それなりに攻撃も挟み込まれているが、決め手には欠けていた。
「はっ!」
紅は強打で攻める。
志織は最低限のフットワークで返していく。
(決めるっ!)
紅が強く踏み込む。
返されれば確実に失点してしまう、大きな一撃。
(『ヒグマ突き』!)
面を正面に向けたままラケットを素早く突き出した。
相手の打球の勢いを押し返し、前に飛ばす事に特化した技だ。
(良いコースだ)
ちょうど身体の正面に飛んでいくボール。
もちろん志織なら返せるが、脚に負担がかかる動きは必要だ。
そのため、無理に追わなかった。
試合のように本気で打ち合うとなれば、タイムリミットは一時間よりも短くなる。
志織としては出来るだけ温存しておきたい。
「紅が先制した!」
元プロ相手に、紅が先制点を奪った。
春呼は興奮して大きな声を出す。
「紅の武器は手数の多さ。慣れる前に次の技が出てくるので、相手からすればやりづらいでしょうね」
「いつの間にかずいぶんと引き出しが多くなってるみたいだね」
美翠が関心する。
(このまま!)
紅の集中はさらに深くなる。




