第九十一話「結果」
(『堕ち夜空』!)
ラケットの黒い面を振り下ろして下方向に叩く。
これもノートに記録されていた技の一つだ。
「順調だね紅ちゃん」
「うん、真珠が手伝ってくれるおかげ」
紅は真珠と技の特訓をしていた。
箱石がノートに蓄積してきた技全てをマスターする。
それが強くなるために紅が立てた一つの目標。
志織に勝利するという目標とは同じ方向にある。
「あのノート、なかなか興味深いね」
「悪いですけど、皿井さんにも見せられませんよ。企業秘密です」
克磨は志織にもノートの中身を教えるつもりは無かった。
信用していないからという訳ではなく、徹底的に流出対策をしているためなのだ。
(あのノートには箱石、特に紅にとって大事な情報が詰まってる。手の内は出来るだけ隠しておかないと)
「良い心がけだ。実用性は試合で教えてもらうとしよう」
「もう最終日かー」
「あっという間に一週間ですね」
春呼と女乃が台を準備しながら話す。
元プロ、皿井志織による指導は今日が最終日。
短いように感じるが、そもそも高校生が元プロから教わる機会など無いのだ。
「紅ちゃんならきっと勝てるよ。いつも通りやれば大丈夫」
美翠が紅の肩を揉みながら言った。
「勝てたらまたお好み焼きご馳走するからね。あ、食べ物に釣られるタイプじゃないか」
美翠は優しく笑う。
「ありがとうございます!頑張ります!」
紅と志織の試合は約三十分後。
準備は任せ、ウォーミングアップを始める。
「連続で行くよ」
「はい!」
アイサが立て続けに回転をかけた打球を放つ。
もちろん志織に教わった技術を使っている。
(バック、いや、回り込んで)
回転の方向や強さ、球速、コース。
自分と相手の二回分を一瞬の内に計算し、打球という結果を出す。
初心者を脱却した紅には、卓球選手の思考能力が既に備わっていた。
「はっ」
回り込んでドライブをクロスに鋭く放つ。
アイサはそれに素早く対応し、下回転を加えて勢いを殺す。
短くミドルに落とされた球を落ち着いてツッツく。
(これ)
アイサはボールがラバーに触れる瞬間、違和感を覚えた。
しかし今更対応は出来ない。
紅のツッツキには想定よりも強い下回転がかかっていた。
アイサのツッツキはネットにかかってしまった。
「よし!」
(今のは狙って出してる。紅の成長速度はやっぱりすごい)
紅はかなり良い仕上がりになっている。
志織との試合も良い結果が期待される。
「七星、始めるぞ。準備は良いね?」
「はい!よろしくお願いします!」
紅の現在地を知るための試合が始まった。




