第九話「確認」
「五月の終わり頃に新人強化大会ってのがあるんだ。一年の二人にはこれに出てもらうよー」
翌日、真珠と紅は自分達が出場する大会について知らされた。
真珠は昨日の時点で知っていたのだが。
「一年生だけで行われる大会でね、一緒に練習とか試合をして強くなろうってイベント。ま、そんなに気負わなくても大丈夫だよ」
紅は胸を撫で下ろす。
いきなり本格的な大会に投げ込まれる訳でないと知って安心したようだ。
「ちなみにどこでやるんですか?」
真珠が質問した。
「犬木高校ってとこ。電車で三駅くらいだったかな」
「去年もそこでしたね。体育館が二階にあるのは驚きましたよ」
女乃と春呼は昨年同じ大会に参加している。
実際の雰囲気なども知っているだろう。
「紅、試合のルールは分かりますか?」
女乃が確認を取る。
「調べてきたので一通りは、、、でも合ってるか自信が無いです」
「良いの良いの。じゃあ今日はルールを実際に試合しながら覚えよーか。真珠ちゃんは向こうで二人と打っててね」
紅、美翠、女乃は台に移動する。
「紅ちゃん、そっちに。女乃ちゃんは解説ね」
「美翠さんが説明しそうな雰囲気だったんですけどね」
紅は貸し出し用のボロボロのラケットを握る。
「まずはじゃんけん。じゃーんけんぽん」
紅はグー、美翠がチョキを出した。
「勝った方はサーブかコートか選べるよ。先にサーブするか、先にレシーブしてコートを選ぶか」
「コート?コートって選ぶ必要あるんですか?」
「基本的にはレシーブ権のおまけみたいなものですかね。まぁ、味方に近い方が良い、照明が片側だけ強い、といった事を気にするならコートを選ぶ時もあるでしょう」
「サーブ、レシーブは好みかな。サーブが回ってくる勝負所が違うから色々試してみると良いよ」
「はい!えーっと、じゃあサーブで!」
美翠はボールを台にバウンドさせて紅に渡す。
「サーブは二点ごとに交代します。サーブの打ち方は昨日教わりましたね?」
「はいっ!えーっと、十六センチ以上ボールを真上投げて、それをラケットで打って、その時に自分のコートにもバウンドさせるんですよね」
「そう。サーブ以外は相手のコートだけで良い。じゃあサーブ打ってみて」
美翠に促され、慎重にボールを右手に載せる。
ふわっとボールを浮かばせ、タイミング良くラケットで打つ。
紅側のコートで跳ねたボールはネットに阻まれ、相手コートに辿り着く事無く落ちた。
「あ」
「サーブミスだね。普通に相手に一点」
紅はネット際に転がるボールを拾い、再びサーブの体勢に入る。
「今度は、このくらいで、、、」
紅は呟く。
そして再びサーブを打った。
同じように自分側のコートを跳ねたが、今度はネットに触れて相手側のコートに落ちた。
「レットだね」
「、、、ネット?」
「らりるれろのれ。レットです。まぁネットと言う事もありますしどちらでも通じますが。サーブがネットに当たって相手側に入った時にはレットになります。この場合は失点にならず、サーブはやり直しです。こういうやり直しになる事全般をレットと言うんですよ」
「そうなんですね」
紅はルールを調べてきていたようだが、完全ではないようだ。
美翠はボールを台にバウンドさせて紅に返す。
「ちなみに、レシーブの時にネットに触れて入った場合はそのまま続行します。ただ、ネットインした時は軽く謝るのがマナーです」
女乃は少し手を上げる。
謝る時はこのように手を上げるのだ。
「行ってみよー」
紅は再びサーブの体勢に入る。
ラケットの角度や振り方を少しずつ調整している。
「はっ!」
ボールがバウンドし、ネットを越えた。
「お、入ったね」
昨日からの練習の成果が発揮されているようだ。
「えい」
無情にも、美翠が叩き返した。