第八十九話「絶句」
志織による指導は四日目。
会得組の、回転方向をコントロールする技術は確実に向上していた。
「回り込むな!そのままバックで打て!」
「はあい!」
美翠は隙の少ないバックハンドで返した。
アイサがかけていた回転の影響で美翠の想定よりも短い球になり、素早く返された。
もし志織に従っていなければ美翠は対応出来なかっただろう。
「対策組の方も良い感じだな」
回転への対処やコース選択を元プロから学び、地力を底上げ出来た。
道具や派手な技だけでなく、地味なテクニックが強さになる。
むしろ、それが不足している者に頂点への切符は無い。
「地区大会には必ず富山の昼砂高校が出てくる」
克磨は全員を集めて言った。
中部地区に属するのは新潟県、富山県、石川県、福井県、山梨県、長野県、岐阜県、静岡県、愛知県の九県。
団体戦では各県から代表二校が地区大会に出場し、全国大会に進む四校を決める。
全国大会は六地区の計二十四校によるトーナメントとなる。
「昼砂は全国常連の強豪校。優勝も一度経験してる。地区大会で一番の強敵になるはずだ」
「ヒルサって、何か聞いた事ある気がする!聞いた事あるってだけだけど!」
この二年、昼砂と箱石は同じ地区から全国大会に出場したが、直接試合はしていない。
春呼の印象にあまり残っていないのも仕方ない。
「現役プロの金城千華も昼砂出身なんだ」
志織が付け足した。
「知り合いなんですか?」
三年前にプロ入りした期待の若手、金城千華。
八年前に引退した志織とは現役期間が被っていない。
「ああ、私に付きまとってくる子でね。悪い子ではないが遠慮が無い」
「おおー、そんな感じの人なんだ!」
真珠は初めての情報に興奮した。
「そして、その妹も昼砂にいるらしい」
「ちょうどその話をしようと思ってたんだ」
話の流れが戻る。
「金城千華の妹、金城蘭華。昼砂高校三年でキャプテン。姉をそっくりそのまま模倣したプレイスタイルで去年の全国個人戦では三位にもなってる。勝ち進めば必ず当たるだろうな」
「なるほど。要注意人物という訳ですね」
「でもさ、プロと全く同じ動きが出来る訳じゃないんでしょ?」
美翠が気付く。
「そう。言ってみれば、金城蘭華は下位互換。倒せないレベルじゃない」
「そうは言っても強敵には変わりないでしょ」
「じゃあ私が戦いたいです!」
真珠が宣言する。
誰よりも強者との戦いを欲する真珠が、ここで黙っている訳が無かった。
「いや、出来れば紅をぶつけたい」
「え」
真珠と紅が絶句した。




