第八十七話「上塗り」
「限られた時間を有効に使うために、今日からは六人を二組に分ける。アイサさん、紅、真珠は皿井さんの技術と相性が良い。この三人に皿井さんの持つ技術を出来る限り会得してもらう」
克磨は志織と話し合い、これからの練習メニューを決めた。
「おおー!やったー!」
真珠は両手を上げて喜ぶ。
元プロから技術を伝授してもらえば、さらなる強さを手に入れられる。
世界一の卓球選手になるためには何でも吸収しなければ。
「美翠さん、春呼さん、女乃さんはその練習相手だ。同系統の相手と戦う時のために対処法を身に付けておこう」
志織は方向のスペシャリストと呼ばれていた。
ありとあらゆる回転方向を司るプレイで活躍したからだ。
高校生にも、プロレベルまでは達せずとも回転方向を自在にコントロールする選手はいるだろう。
「まず会得組は私と一ゲームずつ試合だ。見て大枠を捉えるんだ」
「はい!私からやりたいです!」
「良いだろう。勝つ事に必死になって観察を怠るなよ」
「対策組は千回ラリーだ」
「うぇ」
美翠は、苦しい事を他人にやらせるのは好きでも自分がやるのは嫌いだった。
ただ、必要な事であれば逃げない。
「私達は見学ね」
アイサと紅は試合の様子を間近で観察する事にする。
「始めるぞ」
志織はボールをトスした。
ラケットを持つ左手を台で隠れるくらいまで下げてから、一気に振り上げる。
真正面への純粋な上回転サーブ。
(すごい回転量。でもただの上回転)
横回転が混ざっていない分、全てのパワーは上回転に注がれている。
真珠は強い上回転をカットで和らげた。
まだ回転は残っている。
志織はフットワークをせずにバックハンドを構える。
(『スピンコート』!)
既にかかっている上回転に左上の回転を加える。
ただ回転をかけた訳ではなく、絶妙な強さで打った事により回転を上塗りしたのだ。
真上と左上が合わさり、十一時の方向への回転となった。
(手遅れっ!)
真珠はボールを打っている最中に、想定していた回転と微妙に異なる回転がかかっている事に気付いた。
しかし、今更フォームは変えられない。
上方向へのベクトルが強いため、浮いた球になってしまった。
「ふっ!」
強打を叩き込まれた。
(悔しい。けど、学ばなきゃ)




