第八十六話「朝食」
「先輩は朝はパン派でしたよね。有名なパン屋の食パンを買ってきてありますので、どうぞ召し上がって下さい」
「わあ、ありがとうっ!ここのパンってなかなか買えないらしいのよねぇ」
翌朝、志織は誰よりも早く起きて朝食の用意をしていた。
もちろんキッチンや食材の使用許可は前日に取っている。
「志織さん、お客さんなのに悪いね」
「いえ、泊めていただいているのでこのくらい当然です。それに、先輩のお役に立つのが私の一番の喜びですから」
珠美の夫、計治はサラダの皿をテーブルに移しながら志織に言った。
(相当な天藤珠美好きだな。尊敬を通り越して心酔や崇拝って感じだ)
克磨は牛乳をコップに注ぎながら思った。
柔らかな高級食パンで笑顔になった珠美を見て志織は喜びを噛み締めていた。
「志織ちゃん、良ければどこかにおでかけしない?」
「是非。どこへでもご一緒します」
卓球部の指導があるため、授業が終わる時間には帰らなくてはいけない。
逆に、それまでは何も予定は無かった。
「皿井さんって普段どんな仕事してるんですか?」
志織は珠美のために一週間も空けて見ず知らずの高校生の指導を引き受けた。
普通の会社員ではなかなか出来ない事だ。
「ああ、いわゆる投資家だよ。今はスマホ一つで市場の動向チェックや株式の売買が出来るから身軽に動ける。この一週間も別に休みという訳ではない。楽な仕事だとは思わない方が良いぞ」
克磨が見ていない所で投資家としての仕事をしているらしい。
(ちょっと癖が強いけど、すごい人だな)
「わ、出し過ぎちゃった」
金魚のエサが勢い余って多く出てしまった。
丸い金魚は無我夢中でエサを吸い込む。
「まぁ、たまには良いよね。いっぱい食べて大きくなれ!」
真珠はしばらく金魚の食事を眺める。
これが朝のルーティーンだ。
「私も食べないと」
真珠は遅刻する前に制服へ着替え、二階へ下りる。
朝食は既に並んでいた。
「いただきます!」




