第七十八話「ご褒美」
「春呼さんの課題は強い回転を対処出来ない事。これから全国クラスの相手と戦う上で避けては通れない道だ」
卓球は他の球技よりも回転の影響が大きい。
回転の対処が出来ない事は敗北を意味する。
「『迅雷』は回転の影響を完全に受ける前に返す技だけど、それにも限界はある。ツッツキのレベルを底上げしておかないと、スピードを活かせる展開になる前に負ける」
「ツッツキが苦手ってのは自分でも分かってる。やりたくないけどやらなくちゃなー」
春呼は方針にしぶしぶ従う。
「アイサさんは防御力をより強化しよう。極論、卓球は防御だけで成り立つ。絶対的な防御力はそれだけで強さになる」
春呼とアイサの特訓は同時に行う。
互いが必要としているものを持っているからだ。
「まず、アイサさんは強い回転をかけたカットとツッツキ以外禁止。どれだけチャンスボールでも、絶対に攻撃しない事」
「分かった」
アイサが普段やっている事とそれほど変わらないので、難しい事ではない。
「春呼さんの方は、アイサさんの打った球を全部ツッツキで返すんだ」
「シンプルで助かる。簡単じゃないけどな」
「しばらくしたら見に来るよ」
真珠と美翠のシャトルランを少し見てから、克磨は春呼とアイサの方へ戻って来た。
「調子はどうだ?」
「全然返せねぇ!」
「だと思った」
やはりアイサの回転の強さに春呼はついて行く事が出来ていないようだった。
「あー打ちてぇーっ!打たせてくれぇーっ!」
「えっと、このままじゃ私の練習にもならないかも、、、」
春呼のツッツキには攻撃力が無い。
防御を伸ばしたいアイサにとっては全く手応えの無い打球になってしまっている。
「じゃあ、ここからはルールをちょっと変えよう」
春呼が顔を上げて期待の眼差しで克磨を見る。
「ツッツキでしか返すなって言ったけど、三球に一球は攻撃して良い事にする。二回ツッツキで繋いだら、一回はスマッシュでもドライブでも何でもありだ」
「おおっ!打って良いのか!」
三回に一回とは言え、ご褒美として攻撃が許可された。
春呼のやる気が復活する。
「、、、最初からこうするつもりだったの?」
アイサは克磨に小声で言った。
「ああ、この方がメリハリをつけられるからな。打ちたいから繋ぐし、せっかく繋いで作ったチャンスは無駄にしたくない。どっちにも集中出来るはずだ」
克磨は春呼の性格を利用してやる気を向上させた。
最初から打たせなかったのはご褒美のありがたみをより大きくするためだ。
「いーち!」
春呼はツッツキで繋ぐ。
アイサのサーブは強い下回転がかかっていた。
それを上手く返せたのは春呼が丁寧に面を合わせている証拠だ。
「にーい!」
横回転で若干流されたものの、アウトにはならなかった。
アイサはネット際に短く落とした。
「さん!」
一瞬でバック側に跳び、『迅雷』で叩いた。
「がっ」
アイサにブロックされ、返り討ちにあった。
しかし、春呼の表情はさっきよりも晴れやかだった。
「効果はあったみたいだな」
克磨は次の二人の元へ向かった。




