第七十六話「教材」
「さぁ次は第三試合、ダブルスを見ていきまっしょう。お相手は一年生の白雲真珠さんと七星紅さんです」
「勝ちます!」
「が、頑張ります」
隅根高校との練習試合から数日後、箱石高校の元に動画が届いた。
全試合に譲侍の実況と解説が付いている。
画面の右下には譲侍の上半身が合成されていた。
「出た!『喜柳』!ぐいんとなって横っ!」
スポーツ中継の実況というより、エンタメとしての実況。
コミカルな言い回しをする事によって興味を持ちやすくしているのだ。
「『槍貫』に反応出来ないっ!後ろから溜める特殊なドライブが炸裂していくぅ」
隅根の部員達が質問して回り直接仕入れた情報が実況にも反映されていた。
視点は隅根寄りだが、箱石の活躍もしっかりと解説している。
「結構分かってくれてるかも」
真珠は感心したように言った。
放課後の視聴覚室では動画の上映会が行われていた。
電気を消しカーテンを閉めているため、日中でもかなり暗い。
「アイサ、ポップコーン」
「ある訳無いでしょ」
美翠の要求は簡単に却下される。
通常授業の日にポップコーンを持参しているはずも無いので、美翠も冗談で言っていた。
「「ありがとうございました!」」
全試合が終了した。
「結構勉強になりましたね」
「はい!すごく分かりやすかったです!」
紅のメモは文字でぎっしりと埋められていた。
試合を何度でも見返す事が出来る上に、解説まで付いている。
教材としてはかなり上質だ。
「そうだ!アタシ達も動画撮ろうぜ!」
「却下」
「ええー何でだよー。動画なら何度も見返して復習出来るだろー?な?」
克磨に即答された春呼が抗議する。
「確かに効果的な練習方法ではあるけど、うちには向いてない。うちは人数が少ないし、機材も編集技術も無い。練習時間が削られるデメリットの方が得られるメリットを上回ってる」
「むぅ。言われてみればそうかもなー」
残念そうにする春呼。
克磨は続ける。
「オレ達にはオレ達に合ったやり方がある。よそのやり方を無理に真似する必要は無い」
「はーい、具体的には?」
美翠が挙手して質問する。
「それはもちろん、このノートだ」
克磨は手に持った一冊のノートを見せた。
「それ、歴代の先輩達が書いたっていう」
真珠もノートの存在は知っていた。
ただ、実物を見るのは初めてだった。
「箱石が積み重ねてきた叡智の結晶。ここから学べる事は山ほどあるはずだ。活用しない理由は無い」
「それ全部読むのか?マンガならすぐ読めるけどさ、、、」
勉強が嫌いな春呼に読書の習慣は無い。
百冊近くあるノートを読むのは無謀だ。
「オレが全部読む。それを皆に伝えて実践してもらう。選手として戦えないオレに出来るのはこれくらいだからな」
「、、、十分頑張ってると思うよ」
真珠が呟いたが、克磨には聞こえなかった。
「それならお願いするよ。私達も克磨の指導に応えられるように頑張るから」
「頑張ります!」
地区大会に向け、次のステップを歩み始めた。




