第七十三話「道」
(『アウメント』!)
「ツー、ラブ」
アイサの『アウメント』が再び決まった。
第三ゲームの流れは既に掴んでいる。
(凄まじい回転量ですね。私の技術ではとても返せません)
評理は、自分とアイサの実力差を改めて認識する。
しかし、まだ試合を諦めた訳ではない。
(自由に出せるなら温存する必要は無いはずです。つまり、ここまで出さなかったのは条件が整わなかったから)
少し前のアイサが評理の『双連砲』について考えていた事と同じ。
同じように条件が整わなければ使えない技を持っているからこそ、技の条件について考える事が出来た。
(『アウメント』は相手の回転が強くて、横回転が混ざっていない時しか使えない。横回転を使われないようにしないと)
『アウメント』は相手の回転を増幅させつつ利用する技。
打球に横回転が混ざっていた場合、倍増した横回転の影響で大きく横に逸れてしまう。
相手コートは縦より横の方が短いため、横回転の増幅はアウトになるリスクが跳ね上がるのだ。
「多分、向こうはアイサさんの『アウメント』を返せない。ただ、向こうの『双連砲』もアイサさんには返せない」
「つまり、どうなる訳?」
春呼は深く考える前に尋ねた。
「相手に技を打たせないようにしつつ、自分の技は絶対に打つ。それを出来た方が勝つ」
「それって普通じゃね?」
春呼に言われ、克磨は一瞬止まる。
「、、、まぁ、確かにそうか」
複雑な読み合いでもあり、シンプルな打ち合いでもある。
卓球の本質的な部分と言える。
(何とか『双連砲』に繋げたいところですが)
発動さえ出来れば得点になる。
数少ない突破口をどうにかしてこじ開けたいと考えるのは当然だ。
(やはりそれなりのリスクは背負わなくては打てないようですね)
評理のサーブはスピードも回転も無い軽い球。
まるで一年生に教える時のような優しいサーブだ。
(明らかに打たせに来てる。分かっている罠にわざわざ突っ込む必要なんて無い!)
アイサはチャンスを捨て、ラケットに軽く当てて返す。
もちろんその際に、足をほんの少しずらして『双連砲』も封じる。
(普通、準備段階の一発を回避されては『双連砲』には入れません。ですが!)
評理は力強く一歩踏み込んだ。
(相手の体勢さえ決められれば手段は何でも良い!)
踏み込みに反応したアイサは、半分無意識に身体が動いた。
防御主体のプレイスタイルで染み付いた防御本能が仇となった。
「く」
アイサはすぐに動けない。
僅かな隙が生じ、返球が甘くなってしまった。
回転も球威も無いチャンスボールを、評理は待ち受けていた。
(『双連砲・別道』!)
体勢が固定された状態での不可避の強打。
アイサとの試合の中で、評理は『双連砲』に至る新たな道を見つけ出した。




