第七十二話「不確定」
「セブン、ワン」
第二ゲーム、アイサはほぼミス無く得点を重ねていた。
圧倒的な防御力で、評理の攻撃を全て跳ね返している。
未だ脅威のままの『双連砲』も、第二ゲームでは一度も出ていない。
「このままだと非常に厳しいですねー」
譲侍が悩むように言った。
「完全に『双連砲』を封じられています。どうしたら『双連砲』を打たれないのか、バレちゃってますよ」
「先輩の『双連砲』に、そのような弱点があるのですか?」
人葉が尋ねる。
人葉は『双連砲』を、不可避の必殺技のように捉えていた。
実際、一発目さえ発動すればほぼ確実に得点出来る。
「残念ながらあるんですよ。まず『双連砲』というのは、一発目で相手の体勢を固定し、二発目でその体勢により生じる隙を突く技です」
「二発がセットになっているから、標の記者がそう名付けたんですよね?」
巫子の言うように、卓球の標の記者は技の特徴を盛り込んだ名付けを行う。
各都道府県の記者ごとにネーミングの特徴はあるが、無意味な名付け方はしない。
もちろん、『双連砲』も実際に技を見て名付けられた。
「そうです。ですが、厳密に言うと二発がセットになっている訳ではないんです。一発目を打つのにも条件があります。一発目で相手の体勢を決定するために、その一つ前の体勢も考慮しなくてはならないんですよ」
技として認識されているのは二発だが、実際には三発がセットになっている。
「お相手がその準備段階の一発を上手く返しているので、その次で体勢をなかなか決定出来ないんですよ」
アイサは『双連砲』の攻略法に気付いていた。
第一ゲームの終わり。
克磨の指示通りゲームを捨てた事により、無理してボールを追いかけず相手の観察に集中出来た。
(『双連砲』は相手の体勢を強制的に決める技、だと思う。もしそうなら、条件を満たすために何発か準備が要るはず)
アイサの思考は高速で回転する。
普段は思い悩み過ぎてしまうという欠点だが、その思考の速さは長所にもなる。
(打つ直前に少しだけ足をずらす。これで『双連砲』は封じられる)
隙が生まれる体勢にならないように、あえて自分で体勢を崩す。
足のずれは自分の返球が狂わない程度。
小さな変化だが、『双連砲』という繊細な技を崩すのには十分だ。
(『双連砲』以外は全部返せる。よし、流れに乗ったまま、一気にこのゲームを取る!)
評理の攻撃力は高いが、アイサの防御力が少しだけ勝っている。
その差は次第に積み重なり、広がっていく。
「マッチポイント」
ついにアイサのマッチポイント。
『双連砲』は打たせず、連続攻撃は凌ぎ切り、カットやアンチラバーによる返球で得点を重ねる。
完璧とも言えるゲーム展開だった。
(これが箱石の実力!やはり全国レベルの中でも上澄み!本当に色々学べます!)
評理は劣勢でありながらも、アイサや箱石と試合が出来る事の喜びを感じている。
「はっ」
準備の一発。
アイサはフォアのカットで返した。
右足はつま先を軸にほんの少しだけ内側に回転させる。
このように、わざわざ不要な動きを挟んで『双連砲』を封じておく。
(一発目!)
しかし、体勢は不確定。
普通にプレイしている中なら、多少相手の動きが変わっても『双連砲』の発動に問題は無い。
ただ、アイサのように狙って誤差を作り出されると上手くいかない。
(不発でも!)
技に入れなくても、攻撃自体は可能。
評理はフォアへの下回転をドライブで返す。
(『双連砲』じゃないなら、使える!)
アイサはラケットをバックハンド側に大きく引く。
ドライブによる上回転がかかったボールを、アンチラバーで切るようにして強く擦る。
ただのカットではない。
アンチラバーらしく回転をそのまま利用する訳でもない。
(『アウメント』!)
相手の回転を増幅させ、逆にして返す。
強い上回転は、その倍強い下回転になった。
かなり低く跳ねた球を評理がツッツく。
(越えないっ!?)
ボールはネットに横から勢い良くぶつかった。
下回転の球は打つと下に落ちる。
ネットを越えられないというのは、強い下回転の証拠。
「ゲームトゥファーレインさん、イレブン、ワン」
第二ゲームはアイサがその強さを見せつける形になった。




