第七十一話「積極的な」
「どう?思った通りの展開になった?」
アイサが克磨に尋ねる。
ゲーム間には一分間のアドバイス時間がある。
ベンチコーチは短い時間で的確にアドバイスを行う。
練習試合などでは、この一分間以外でも簡単なアドバイスが認められている場合が多い。
試合でもあるが、練習でもある。
克磨がアイサにゲームを捨てて良いと言ったのもこれが練習試合だからだ。
「ああ。アイサさんが何か掴めたのなら」
克磨はアイサの表情を見て言った。
表情に不安は無い。
「うん。糸口は掴めた気がする」
克磨はアドバイスを続ける。
「『双連砲』の対処だけに気を取られず、積極的に強い回転を使っていこう。アイサさんの防御は攻撃でもある。とにかく守り続ければ、必ず得点になる」
「うん、分かった」
その他のアドバイスを受け、アイサは戦場に戻る。
わざわざ一ゲーム目を捨ててまで得た攻略の糸口。
それを使ってここから二ゲーム奪うのがアイサの使命だ。
(次は相手のサーブから。流れは向こうが握ってる。サーブでさらに勢いに乗られる前に断ち切らないと)
評理は勢いだけでプレイする選手ではないが、だからと言って勢いに乗せて良い訳ではない。
アイサは評理に、相手がペースを握っていると思わせなければならない。
(下)
最初は基本的な下回転のサーブ。
手を抜いているというより、エンジンを温め直しているのに近い。
アイサはツッツき、すぐに元のポジションに戻る。
隙が生まれると容赦無く強打を叩き込まれるだろう。
隙を生まないために、ニュートラルポジションへ戻る速さが重要となる。
(流れを掴むために先制点は必須。攻め急がず、慎重にチャンスを待ちましょう)
一撃のこももと異なり、評理のスタイルは連撃。
勢いに乗った状態でより恐ろしいのは評理の連続攻撃の方だ。
(攻めてこない。それなら)
アイサはバックハンド、黒い面で打った。
下回転が上回転に変わる。
アンチラバーでの返球には常に気を付けておかなければ回転を見誤る。
(まだ打てませんね)
評理は冷静に機会を待つ。
闇雲に打つだけではアイサの防御は崩せない。
軽くラケットに当て、ラリーのテンポを遅くする。
(受動的に守るだけが防御じゃない!)
アイサはバック側に身を乗り出した。
短く、回転の弱い球をバックハンドを使って鋭くクロスに返した。
横に向かって飛ぶボールに、評理は届かない。
「ラブ、ワン」
二ゲーム目、先制したのはアイサ。
決して流れを渡さないという意識が、積極的な防御を成功させた。
攻撃されるよりも先に点を決めてしまえば、結果的に防御となる。
アイサは待つだけの選手ではない。
(この調子で!)




