第七十話「捨てる」
「このゲームを、捨てる?」
アイサは今耳にした言葉を信じられなかった。
しかし、基本的に試合の途中で長いアドバイスは受けられない。
克磨が言った言葉の真意は分からずとも、受け入れるしかない。
(克磨がこのゲームを見てちゃんと考えた事。それなら、私が今からいろいろ考えても仕方ない)
具体的な裁量はアイサに託されている。
どのように第一ゲームを捨てても良いのだ。
評理のサーブは横回転を混ぜた下回転。
そこまで回転は強くなかったので、簡単に返せた。
(捨てると言うのなら!貰っておきます!)
評理はアイサが下回転で返した打球をドライブで返した。
念のため、コースも際どく狙っていく。
アイサのバック寄りのミドルへのドライブ。
アイサは無理に追わず、目で追うだけで留めた。
「よし!マッチポイントよ!」
こももが希望を持つ。
ここまで隅根は箱石から一ゲームも奪えていない。
惜しいゲームはいくつもあったが、惜しいだけでは意味が無い。
キャプテンである評理が一ゲームを先取する事は、隅根にとって大きな事だ。
(もちろん最後まで全力で打ちますよ。私の油断を誘う作戦の可能性は十分にありますから)
女乃とこももの試合では、そのような精神的な揺さぶりが決め手になった。
評理は警戒しつつサーブを放つ。
逆横回転を混ぜたロングサーブ。
いわゆる巻き込みサーブだ。
(とりあえず、返せそうなら返してみる)
ラケットを当ててみて、回転の強さを確かめる。
このゲームは捨てて良いと言われているが、無駄にして良いとは思わなかった。
アイサは真面目だ。
よって、捨てるゲームでも無駄にしないための行動を取る。
(甘い球ですね。ですが罠の可能性がある以上、リカバリー出来るように打つとしましょう)
一瞬の間にそこまで考えて打った。
アイサのフォア側、ほんの少しだけ手を伸ばさないと届かない位置。
アイサは半歩分右足を出してラケットの位置を調整した。
(もしかして、これが?)
(ここ!)
評理は跳んだ。
確実に決める、必殺の二発目。
(『双連砲』!)
アイサは既に気付いていた。
(やっぱり、あれが一発目だった!)
コースや回転について深く考えなかった分、評理の動きがよく見えた。
それにより、『双連砲』の一発目が来ると予想する事が出来たのだ。
「ゲームトゥ道屋先輩、イレブン、ナイン」
それだけで十分。
二発目には反応せずに観察に徹した。
「ふぅ、、、これで良いんだよね」




