第六十八話「逆方向」
「セブン、ナイン」
第一ゲームは、アイサがやや優勢に進めていた。
しかし、点差は徐々に縮まりつつある。
(あと二点。落ち着いて返せば、取れる)
アイサには、焦ると必要以上に物事を考えすぎてしまう癖がある。
自分でもそれが分かっているので、出来る限り平静を保つ事を自分に言い聞かせるようにしている。
(いつもの横から)
順横回転を混ぜた下回転のサーブ。
アイサがよく使うサーブだ。
このサーブからラリーを組み立てていく事が多い。
評理はツッツいた。
(おっと、危ない)
横回転の影響を受け、アイサのバック側へ流れた。
何とかアウトにはならなかった。
アイサはバックハンド、裏面のアンチラバーでツッツく。
評理の動体視力はそれを見逃さなかった。
分かっていれば、そこまで危険な球ではない。
(動画の最大の見せ場!それは今!)
評理はバックハンドの構えに入る。
アイサは評理が放つ殺気のようなものを感じ取り、身体に力が入ってしまう。
(『双連砲』!)
アイサの身体の近くに向けたバックハンドの強打。
一瞬の硬直から立ち直ったアイサは、ラケットを立ててブロックする。
評理は跳ね返ってきたボールの軌道が分かっていたかのように待ち受けていた。
「二発目っ!」
バックハンドを振り抜いた勢いを殺し、すぐに逆方向に振り抜く。
往復するような二連続攻撃だ。
「つっ!?」
素早い連打で強制的に隙を作り出されたせいで、アイサは二発目を防ぐ事が出来なかった。
一発目で相手の体勢を決定し、二発目でその体勢が生む隙を突破する。
これが評理の『双連砲』だ。
「ナイン、エイト」
「どうです!これが道屋評理の必殺技『双連砲』ですよ!」
カメラに向かって決めポーズを取る評理。
カメラを構える譲侍の顔は少年のようにも親のようにも見える。
「おおー、かっこいー」
美翠が適当に言った。
「でも、あれを連発出来るなら最初から使ってるんじゃない?」
紅が克磨に尋ねる。
「そうだな。色々と出すための条件があるのかもしれない」
「回転やコース、速度、相手の位置など、技に移行するための条件がいくつも重なっていないと成功しないのでしょう」
女乃が補足した。
「じゃあ、あの『双連砲』ってのを打たせないようにすれば良いんだな」
春呼も加わる。
「打たせない、か。そのためには条件が何なのか知らないと」
克磨は今のラリーを思い出す。
バックハンドでの返球、身体の近くでのブロック、逆方向への二発目。
(ダメだ。流石に一回のラリーじゃ分かりようが無い。あと何回か見ないと法則が導き出せない)
つまり、アイサはあの『双連砲』を何度か相手しないといけない事になる。
(条件を割り出すまで耐えてくれ)




