第六十七話「上に」
(これは、とんでもない!)
評理は心の中で唸っていた。
アイサが解禁したアンチラバーに翻弄され、連続失点してしまったのだ。
「ファイブ、ワン」
(何回か打ってみた感じ、回転で勝負するのは無謀ですね。そう簡単にミスしなさそうですし)
アイサは一年生の頃からアンチラバーを使っている。
扱いが難しいアンチラバーでもかなり正確に返球出来る。
(一度試してみますか)
評理はフォア側へ速いロングサーブを放つ。
アイサは普段通りカットで返した。
回り込み、バックへ向けて強打した。
(さぁ!裏面で打ってみて下さい!)
評理の願い通り、アイサはバックハンドの黒い面で押し出すように打った。
アンチラバーは相手の回転を利用する。
しかし、無回転に近い球であれば。
(無回転をアンチラバーで返しても、無回転のまま!)
そして評理はこの打球が無回転である事を知っている。
遠慮無く渾身の一撃を放てる。
「はぁぁっ!」
弾丸のような打球がアイサのバック側を撃ち抜いた。
「ツー、ファイブ」
(無回転で返した、ね)
アイサは内心驚いていた。
相手に悟られないようにしているが、それなりに衝撃はあった。
(こっちがカットでかけた回転と同じ強さの回転を逆方向にかけて相殺。かなりの動体視力と身体能力が要るはず)
評理の連続攻撃スタイルは、並外れた動体視力の上に成り立っている。
瞬時に回転を見極め、最適な打ち方を選ぶ事で絶え間無く高威力の攻撃が出来るのだ。
「もう攻略されたのか」
克磨は、アイサのアンチラバーによる返球はそう易々と攻略出来ないと考えていた。
アンチラバーの使い手は少なく、アイサ自身の技術も優れている。
克磨の予測を狂わせたのは、やはり評理が持つ高い能力。
切り札を早めに切った分、これからが厳しくなるだろう。
(大丈夫。これの本領はまだまだこれから)
アイサは意識して冷静さを取り戻す。
必ずアンチラバーで返球すると分かっていれば対応出来る。
ならば、通常の打球の中に巧妙に紛れ込ませれば良いのだ。
相手に警戒させつつ、カットをメインに持久戦に持ち込む。
これがアイサの勝ち筋。
「このまま、耐え切る」




