第六十六話「牙」
(一発くらいでは返されてしまいますね!)
評理の攻撃力は高いが、アイサの防御力はそれを上回っていた。
評理の強打はカットやブロックで止められてしまう。
このままただ攻撃するだけではアイサが勝利するだろう。
「ツー、ラブ」
(それなら、何度も連続で打つのみです!)
シンプルだが強力な作戦だ。
評理は長めの下回転サーブをアイサのフォアに放った。
アイサは台上でツッツいて繋ぐ。
「たっ!」
一発目。
ミドルへのドライブ。
アイサはカットで長めに返す。
「はっ!」
二発目。
フォアへのスマッシュ。
再びカットで返した。
「ていっ!」
三発目。
回り込んでスマッシュ。
ストレートへの速い打球はアイサのラケットの先端に触れた。
ボールは弾かれる。
「ワン、ツー」
三連打でアイサの防御を崩した評理の得点となった。
(動きが速い。打った後の隙が無いから何度でも打ってくる)
一回の攻撃力が高いこももとは異なり、評理は連続攻撃を武器にしている。
一度で突破出来ない相手の守りも、攻撃を続ければ打ち崩せる。
少しずつ削っていけばどんな守りもいつかは突破出来る。
(このままだと押し負ける。ちょっと早いけど、使うしかないか)
現在の得点は一対二。
切り札を使うには早すぎるが、ペースを握られて点差を一気に広げられる方が問題だ。
評理のサーブはフォアへのロングサーブ。
アイサはこれまで通りカットで返す。
(貰いますよ!)
評理はストレートに返ってきた球を、回り込んでクロスに打つ。
評理のフットワークとスイングには無駄が無く、一瞬で回り込んでドライブに移行出来る。
(来た!)
アイサはこの試合で初めてバックハンドでカットを打った。
アイサのラケットの黒い面には、パウダースノウというラバーが貼られている。
裏ソフトにも見えるが、その正体はアンチラバー。
摩擦係数を極限まで減らした、サラサラのラバーである。
アンチラバーで打つと、ボールの回転がほとんどそのまま残る。
柔らかいスポンジで球威は吸収しつつ、相手の回転は残して利用する。
自力で回転をかけられないので非常に扱いづらいが、使い手の少なさ故に相手は対応出来ない。
(使ってきましたか!)
評理は、ラケット交換の際にこのラバーの存在に気が付いた。
評理も、これを切り札だと認識していたのでここまで早く使ってきた事に驚く。
「つ」
ネット際にゆっくりと落ちたボールには、強い下回転がかかっていた。
自分がかけた上回転をそのまま返されると、自分にとっては下回転となる。
自分のドライブによる強い上回転が、強い下回転となって牙を剥く。
「ワン、スリー」
ネットにかかってしまい、アイサの得点となった。
(この先、これを常に警戒しながら打たないといけないとは!、、、すごい!)




