第六十五話「ワクワク」
「お疲れー」
美翠が差し出した手を、女乃は軽く叩いて返した。
「女乃さん」
「はい、華麗に勝利した月本女乃ですが何か?」
克磨に対して挑発的な返事をする。
「、、、後でしっかり話を聞かせてもらうからな」
結局、勝った事に変わりは無いので、克磨は追及を後回しにした。
「それより、次の試合だ。準備は出来てるか?」
「うん、大丈夫だよ」
残る箱石のメンバーは一人。
副部長のアイサ・ファーレインだ。
「ねぇ克磨。何でアイサさんを最後に持ってきたの?」
真珠が尋ねる。
アイサの実力を不安視しているという訳ではなく、単純に疑問を持ったのだ。
克磨もそれが分かっているので失礼な発言だとは思わなかった。
「相手は間違いなくキャプテンの道屋評理だ。去年の全国では隅根で唯一勝ち星を上げてる実力者だ」
三年生が勝てなかった中、二年生の評理が一勝した。
それからさらなる成長を遂げているだろう。
「とにかく攻撃的なプレイをする事で有名らしい。だから相性を考えてアイサさんに相手してもらう事にした」
克磨は唯一戦い方が判明している評理から順番に、誰を当てるか考えた。
「圧倒的な攻撃力を相手にするならやっぱり圧倒的な防御力だ」
アイサが得意とするのは粘り強く守るプレイ。
隅根の最強の矛と、箱石の最強の盾。
この試合でどちらが強いか決める事になる。
「さぁさぁ!皆さんお待ちかね!最後の試合はわたくし、キャプテンの道屋評理にお任せ下さい!」
カメラに向かってそう宣言する評理。
あくまで対戦相手の研究用の映像で、全世界に発信している訳では無い。
それでも配信者のような演出は欠かさないのが隅根流なのだ。
「対戦相手は箱石高校の三年生!アイサ・ファーレインさんです!よろしくお願いします!」
「よろしく」
アイサは戸惑う事無く対応した。
ラケットを交換して見せ合う。
(表はストロングスピリッツ。裏は、パウダースノウ!なるほど、これは珍しい!)
アイサのラバーを見た評理は内心で驚く。
ラバーに出来るだけ触れないようにしながら、相手に返却した。
サーブはアイサから。
(ここまで一ゲームも落としてないんだから、私も落とせないよね)
箱石はここまで無敗。
実力差はかなりある。
だが評理の強さは別格。
アイサはそれを知っている。
(いや、変なこだわりはやめよう。どんな形でも、最後に勝つ事だけに集中)
目標を再確認し、サーブの構えに入る。
最初のサーブは短い横回転。
下回転もかかっているので、そう簡単には攻撃出来ない。
(様子見ですか!)
評理はラケットを寝かせ、ツッツキの体勢に入る。
「ていやっ!」
短い球を無理矢理ドライブで返した。
ツッツキをすると見せかけて、いきなり攻撃をしてきた。
(いつも美翠の『何でもドライブ』を相手にしてるんだよ、私は!)
アイサはドライブによって強い上回転がかかったボールの下の方を斬るように擦った。
強い下回転によって相手のミスを誘う技術、カットだ。
防御主体の選手が用いる事が多く、使い手はカットマンと呼ばれる。
アイサもいわゆるカットマンだった。
(やはりカットマンでしたか!)
ラバーを見て、アイサがカットマンである可能性が高いと考えていた評理。
その答え合わせが出来ただけで満足した。
「ワン、ラブ」
評理はドライブ後の体勢から無理に返球しようとはしなかった。
(カットマンと言えば防御力が売り!それを私が突破する!良い動画になりそうです!)
評理はワクワクして笑っていた。




