第六十二話「慣れてしまった」
「らああああああっ!」
「ゲームトゥ月本さん、イレブン、エイト」
一ゲーム目は女乃が取った。
ミスは目立ったものの、攻撃力の高さがそのマイナスを打ち消していた。
「なぁ」
「何」
「何、じゃなくてな。急にどうしたんだよ。いつもはこんな雑なプレイしないだろ」
克磨は先輩相手だろうと容赦なく問い詰める。
「あー、ちょっとムカっと来ちまってな」
口調は春呼と似ている。
女乃の声でも意外と馴染む。
「とにかく、速攻で決めてくるから、心配すんなって」
「あのなぁ、、、」
もはや克磨からはため息しか出ない。
女乃は意気揚々と台の方へ戻っていく。
「女乃さん、どうしちゃったんだろう?」
紅は心配するように呟いた。
(もう今のあなたには慣れたわ。ここからは全力でブッ放せる!)
こももは女乃のテンポにも適応し始めていた。
女乃の速いロングサーブを簡単に返した。
(少し際どい球を出せば)
狙ったコースは、女乃のフォア側の角。
一番長い、一番右側への速い返球だ。
「らっ!」
大きくスイングして、こもものバック側へストレートに返した。
しかし、これは完全に読まれている。
バックハンドで強く叩き返された。
「ラブ、ワン」
女乃の攻めは続く。
「おらあっ!」
「ツー、スリー」
しかし、なかなか決め切れない。
こももの対応力が女乃の突破力を上回っているのだ。
(『地引散下』!)
女乃がボール弾いてしまい、回転が弱い長い打球になってしまった。
それを、こももが奇妙な打ち方で返す。
ラケットをボールの下に潜り込ませ、当たる瞬間に床に向けてラケットを下げる。
通常よりもラバーに触れている時間が短くなった事で、回転が不規則になった。
「かっ!?」
球速と軌道と回転が微妙に噛み合わない。
この違和感が、女乃の返球を狂わせる。
「ツー、フォー」
普段の冷静な女乃ならともかく、今の乱雑な女乃ではまず返せない。
(『地引散下』!)
「ファイブ、エイト」
本来、こももの方も攻撃的なプレイを好む選手。
女乃の攻撃速度に慣れてしまったこももなら、女乃との押し合いに負ける事は無い。
「本当に大丈夫なのか?」
克磨は春呼に確認を取る。
「大丈夫だ。多分な」
「さっきより自信無くなってないか?」
女乃は腕を真っ直ぐ上げて、大きく伸びをした。
「うぅぅぅぅぅぅっ!ああああーっ!」
気持ちを切り替え、改めて相手を見据える。
「もう少しギアを上げるか!」




