第六十一話「豹変」
女乃のサーブは普通の下回転だった。
(これまでの傾向からして、すぐには攻撃して来ないはず。それなら、先にブッ叩く!)
こももはやや強引にサーブを叩いた。
ネットを掠り、女乃の正面に向かって飛んでいく。
バックハンドに切り替えようとした女乃の手首にボールがベチンと当たった。
「シックス、ファイブ」
バウンドしていなかったため、女乃の得点となる。
「いった」
女乃は少し赤くなった手首をさする。
「ごめんなさいね」
攻め急いで失点した事を反省しつつ、気持ちを切り替える。
こももは女乃の観察を再開する。
(何か、雰囲気が変わったような?)
女乃の次のサーブは速いロングサーブ。
急なテンポアップだが、こももは冷静に返した。
「らあっ!」
女乃は素早くバック側へ回り込み、ストレートに強打で返した。
不意を突かれたこももは返球出来なかった。
(なっ!?いきなり打ってきた!?)
さっきまでの女乃ならば、絶対に攻撃しないような局面だった。
こももは感じた違和感が正しかった事を悟る。
「女乃さんがあんな打ち方するの、初めて見たかも」
真珠はこれまで数ヶ月女乃と一緒に練習してきた訳だが、このように荒々しい打ち方をしたのを見た事は無かった。
「オレも知らない。プレイスタイルとか苦手得意とか全部教えるように言ったんだけどな、、、」
克磨も知らないようだ。
(そろそろ仕掛けるはずだとは思ったけど、まさかこんな事をするとは)
二年生と三年生は何も言わない。
ただ、春呼の一言以外は。
「まぁ、見てろって」
女乃は普段絶対にしないような獰猛な笑みを浮かべている。
(明らかに人が変わった!何がきっかけ?プレイスタイルが変わったのもそれのせい?)
こももの頭の中がこんがらがっていく。
(いや、今考えても仕方ないわ。とにかく、目の前の攻撃的な相手に集中しなくちゃ)
こももは横下回転のサーブを選択する。
安定択で、とりあえず出方を窺う。
「どらぁっ!」
ドライブで強引に決めようとする。
しかし、大きく浮いてアウトになってしまった。
「シックス、セブン」
「雑だーっ!もっと丁寧に打て!」
克磨は我慢出来ずに叫ぶ。
「いわゆる暴走状態というヤツでしょうかねー。面白い!」
譲侍は呑気に楽しんでいるようだ。
「ちっ」
女乃は舌打ちをした。
「次は決めてやる」
口調すらも豹変している。
こももは再び下横回転のサーブ。
さっきより下回転を強めにした。
「らっ!」
女乃はやはりドライブを放った。
無理に打ったドライブは回転が弱く、こもものバックハンドがボールを確実に捉えられた。
クロスに返された速い球を、女乃はバックハンドで真っ直ぐ返す。
「ブッ放す!」
回転が弱い状態のボールを、こももは思い切り打った。
必殺の一撃。
「効かねぇよ!」
女乃は乱暴に叩き返す。
凄まじい速さで戻ってきたボールに、強打後で隙が生まれていたこももは反応出来なかった。
「シックス、エイト」
「るっしゃああああっ!」
女乃は吠えた。
克磨は天井を仰いだ。




