第六十話「無難」
次は女乃のサーブ。
ボールを受け取ると、一拍置いてトスした。
(横下回転ね)
ボールの下の方を、右から擦った。
よく使われる基本の横回転サーブだ。
(長めに)
こももはツッツキで、アウトにならないギリギリまで長く返す。
女乃は一歩下がってカット気味にツッツいた。
(これなら)
こももはフォア側に跳んだ。
「ブッ叩ける!」
そこまで高い球ではなかったが、最も高く上がったタイミングは完璧に捉えていた。
チャンスボールでなくても、技量さえあれば攻撃チャンスは作り出せる。
「ふっ」
しかし、女乃はブロックで逆サイドへ簡単に返してしまった。
「ツー、ワン」
「なーっ!?」
女乃は完全に攻撃を読んでいた。
(なるほどね。常に冷静で、淡々と返すタイプ。あたしとは逆ね)
再び女乃の横下回転サーブ。
こももは同じようにツッツく。
「ちょっ!?」
さっきと同じサーブのはずなのに、逆方向に曲がった。
女乃のフォア側に流れてアウトになってしまう。
「今のって、、、」
真珠はぐったりしながらも試合から目を離していない。
「ああ、打つ瞬間に逆方向に擦ってる。フォームはほとんど変えずに、タイミングの僅かな違いだけで回転を逆にしたんだ」
普通に考えれば、逆方向にラケットを動かせば見て分かる。
しかし、女乃の場合は逆に動かす際の違和感を限りなく少なくしているのだ。
右から左にラケットをスライドさせ、打った直後に逆方向へ素早く戻す。
こうする事で、ラケットの勢いを使って身体の向きを正面に戻せる。
本来は、こうした役割のためにラケットを逆方向に動かす。
女乃は、この動きを応用して回転方向を逆にしたのだ。
(一瞬だけ打つタイミングを遅らせて、ラケットを返す動きの方で打った、って事ね)
こももは積極的に攻めるプレイをするが、頭が回らない訳ではない。
次の自分のサーブまでに分析を終えていた。
(次からは騙されない)
こももは先程よりも大きく振りかぶってサーブを打った。
下回転が強くなっているので、女乃はより慎重にツッツく。
対するこもももツッツキで返した。
(こういう冷静なタイプは、大抵自分から攻めるのが苦手!チャンスが来るまでじっくり繋ぐ!)
こももは試合方針を決めつつ、女乃の動きを観察する。
サーブでトリッキーな事をしてきた以上、常に警戒しておかなければまた騙されてしまうだろう。
女乃は特に変わった動きをする訳でもなく、普通に返していく。
両者が無難なラリーを続け、たまにドライブをして得点する。
「ファイブオール」
「なんて言うか、じれったい試合だな」
春呼は言葉を選びながら呟いた。
克磨は試合の動向から目を離さずに言った。
「いや、そろそろ動くかもな」




