第六話「千回」
土日明け、月曜日。
入部届を出し、正式な入部が認められるようになる。
「結局入部したのは私達だけだったね」
「ま、少数精鋭なら問題無いでしょ」
格技場に脚を踏み入れる真珠と紅。
今日からは正式な卓球部員として使用する事となる。
「しゅうごーう!」
着替えと卓球台の準備が終わり、部員が集められる。
先週よりも一人多い。
「はい、皆さんこんにちは。一応卓球部をやっている相田羽子です」
アイダハネコ、美術教師で美術部の顧問。
卓球部は名前だけの顧問なのだ。
「えー、あまり顔を出す事は無いと思いますが、名前くらいは覚えておいて下さいね。それじゃあ、日野さん。後はお願いします」
「はい、どうもでーす」
あっという間に帰ってしまった。
恐らく美術部の方に行ったのだろう。
「ちなみに相田先生は三十三歳独身だよ」
「そ、そうなんですか」
紅は要らない情報を受け取らされる。
「さて、自己紹介なんかは終わってるし、ちゃちゃっと練習始めちゃおーか」
ストレッチ、ランニングを終え、美翠が再び指示を出す。
「今週は二人ずつ分かれて、一年生を指導していくよ。私と女乃ちゃんは真珠ちゃん、アイサと春呼ちゃんは紅ちゃんねー」
真珠は二人に連れられ、奥の台に向かう。
「経験者の真珠ちゃんにはハードな練習メニューを用意したよ」
真珠は息を呑む。
(一体、どんな練習を、、、)
「その名も、千回ラリー」
女乃はピン球をラケットの上で弾ませながら台に位置取った。
「ルールは簡単です。私は左右交互に打ちますので、それを打って下さい。千回打ち返したら終わりです」
「アウトになったらノーカンだからねー」
つまり、千回ラケットに当てるのではなく、千回打ち返してインにするのだ。
「行きますよ」
女乃のサーブがフォア側に飛んでくる。
真珠はそれを相手のフォアに返すが、鋭くバックに返ってきた。
「はっ!」
素早いフットワークでバック側に跳んだ。
バックハンドが届いた。
「あれ、今何回だっけ?」
「え!?」
既に十回以上は返球していたが、正確な回数は分からない。
「ごめんごめん、今ので三回目って事で」
美翠は軽く笑う。
「今の分を取り返すためにも、ちょっとペースアップしましょうか」
ビュンッ!
女乃のスイングスピードが明らかに速くなる。
「だっ!」
真珠は何とか食らいつく。
左右に大きく振られる事により、体力をかなり消費してしまう。
「さんびゃーく」
真珠の息は乱れているが、女乃は大して疲労していない。
もちろんフットワークを強制されていないというのもあるが、それでも体力的に真珠は負けていた。
「ななひゃーく」
真珠の肉体は悲鳴を上げているが、止まる事は許されない。
「九百きゅうじゅーう」
「あと少しです。気を抜かないで下さい」
ラスト十回。
真珠には、ボールが最初の何倍も速くなったように感じられた。
実際は身体が重くなっているからそう感じるだけなのだが。
「ラスト!スマッシュで!」
「はぁっ、はいっ!」
高く上がった甘い球を視界に捉え、真珠は跳ぶ。
「はああああっ!」
長かった戦いに終止符を打つ。
スマッシュの威力はかなり落ちていたが、アウトにはならなかった。
「お疲れー。よく頑張ったね」
床に倒れ込んだ真珠に美翠が声をかける。
「ゆっくり休憩しておいて。後でご褒美あげるから」
疲れ過ぎて言葉の意味を噛み砕けない。
「はぁ、はぁ、が、はぁ、はぁ」
身体を引きずるように後ろに下がり、台から離れる。
美翠と女乃がラリーを始めたのだ。
(し、死ぬ、、、)