第五十七話「表情」
再び人葉のサーブ。
(真珠に繋げなくちゃ)
さっきのように浮くとチャンスボールになってしまう。
いくら真珠でも、全国レベルの相手に渾身の一撃を打たれれば楽には返せない。
紅の役割は、真珠が得点を決め切れるように愚直に繋ぐ事。
(よしっ、ちゃんと返せた!)
ネットをギリギリ越えるツッツキ。
コースも悪くない。
紅は右側に跳んで退避した。
左利きなので、フォアハンドで返球する際に身体を台の外側に出せる。
シングルスのように戦いつつも、サーブコースが制限されるダブルスの利点も活かしているのだ。
(ここからでは、打てないっ)
巫子は攻撃するのを諦め、ツッツキで際どいコースを狙う。
バック側のネット際、短い下回転。
真珠は一歩目で左に、二歩目で前に跳んだ。
たった二歩でボールの間合いに入る。
跳んだ勢いを利用して、素早くボールを切る。
(打たないっ!?いや、これは!)
巫子の嫌な予感は当たっていた。
強打だけが得点手段ではない。
真珠は、巫子の『喜柳』と同じように回転の力で攻撃したのだ。
ネット際に落ちたボールは、強いバックスピンによって相手から離れるようにバウンドした。
「くうっ!」
人葉は飛びつくが、間に合わない。
「ツーオール」
真珠は元の位置に戻りながら息を吐く。
「エイト、ツー」
真珠の活躍によって得点を重ねていく。
実質一対二であるにも関わらず圧倒していた。
「はぁ、はぁ、ふぅ」
真珠は深く息を吐く。
顔から汗が床に落ちる。
(真珠、かなり疲れてる。私が弱くて戦えない分、真珠が動いてくれてるから)
紅はこの試合中に何度自分の弱さを思い知らされただろう。
割り切っていたはずなのに、足を引っ張っているという事を考え続けてしまう。
次は人葉のサーブ。
真珠は四人の中で最後に打つ事になる。
(白雲さんに回る前に決めたいですね)
人葉のサーブは、巻き込みサーブ。
逆横回転がかかっており、左利きの場合、打つと外に逃げるように飛ぶ。
紅はそれを考慮してやや右寄りに打ち返した。
「たっ!」
巫子のバックハンドがクロスを撃ち抜く。
真珠もバックハンドで食らいつくが、弾いてアウトにしてしまった。
「真珠の動きにキレがありませんね」
今の真珠の動きを見て女乃が言った。
克磨も頷く。
「ああ、かなり疲労が溜まってる。あと三点。このゲームで決めないと負け濃厚だ」
全て一撃で決めるほどの集中力と体力を維持し続けるのは、才能溢れる真珠でも不可能。
ここから崩されれば逆転負けの可能性も大いにある。
「真珠、このポイントは私が攻めるよ」
「、、、分かった」
真珠は、考えたり言葉を発したりする事すら体力の無駄だと思い、素直に肯定した。
紅の表情は任せろと言っている。
(七星さんが前に出た?ここに来て作戦変更ですか)
人葉は警戒しつつも、再び巻き込みサーブを選択した。
(来たっ!)
紅は迷わずドライブを放った。
回転の影響も考慮し相手のバック側へ。
(やはり打ってきた!でも、追いつける!)
一秒にも満たない短い時間で、巫子は判断を下す。
(回り込む!)
バック側のボールをフォアハンドで返す。
回り込む分素早く動く必要はあるが、攻撃力は増す。
「なっ」
回り込むのには間に合ったが、巫子は打てなかった。
バウンド時に僅かに曲がり、軌道が変化した。
(強い横回転を混ぜた?)
紅は相手の横回転とは逆の方向に、強い横回転をかけていた。
「スリー、ナイン」
「よしっ!」




