第五十六話「次」
「まずは一ゲーム。だけどまだ安心は出来ないぞ。相手の回転をよく見るようにするんだ」
「うん」
ゲーム間のアドバイス時間。
一分という短い時間で克磨は要点だけを伝える。
「今の作戦は良いと思う。このまま、真珠をとにかく暴れさせよう」
「そんなに暴れてる?いつも通りだと思うけど」
「真珠のいつも通りは規格外だから、、、」
紅は苦笑いする。
「紅。真珠が毎回得点を決められるとは限らない。万が一に備えておけ」
「分かった」
真珠は打った後、後ろに下がらない。
紅は真珠を避けながら打たなければならないため、少しでも無駄な動きをすれば打球に間に合わなくなる。
(真珠に任せるのと、頼りっぱなしになるのは違う。私には、私なりにやらなくちゃいけない事があるはず)
「頑張れ」
「頑張ってねー」
「「はい!」」
アイサと美翠に激励され、二人は台に戻る。
コートチェンジしたため、箱石の部員が正面に見える。
逆に、背後には隅根のカメラがある。
「「お願いします!」」
「「お願いします」」
ダブルスの第二ゲームは、第一ゲームで最初にレシーブをした選手のサーブから始める。
つまり、真珠のサーブが開戦の狼煙を上げる。
(サービスエースしか眼中に無いよ!)
真珠は順横回転が混ざった下回転サーブを放つ。
ダブルスでは、サーブのコースが制限されてしまうため、際どいコースを突いたサービスエースは狙いにくくなる。
つまり、サーブの攻撃力を増すためには回転が命。
「くっ!?」
人葉の打球は強い回転のせいでネットの支柱に当たってしまった。
そのまま床に落ちてしまったため、当然得点にはならない。
「ワン、ラブ」
(やはり凄まじい回転ですね)
再び真珠のサーブ。
同じようなフォームだが、横回転と下回転の強さが微妙に違う。
前のサーブに合わせて調整しても上手く返せないだろう。
(ですが、私達の武器は安定感!そう何度も同じ手で失点はしません!)
人葉と巫子、隅根のダブルスゴールデンペア。
呼び名に対して、戦法は地味で華が無い。
それでも、堅実に得点を重ねられるから強い。
(返された!)
人葉は完璧ではないながらも、真珠のサーブを返した。
コースは、真珠が構えるミドル。
(右利き、左利きペアの利点である交代のしやすさを捨てたその戦法では、どうしても隙が生まれる)
高い球ではあったが、球速はそれなりにあった。
紅のラケットは届かない。
「ワンオール」
(克磨くんに言われた事、全然出来てない。真珠のフォローをす)
「紅ちゃん、次」
考えを真珠に断ち切られる。
短く、鋭い言葉。
集中力が高まった真珠はとても冷たい雰囲気だ。
「うん、切り替える」
それでも、紅は傷付かなかった。
(ここで悔やんでも仕方ない。真珠はもう前を見てる)
紅はラケットを握り直した。
次は人葉のサーブを紅が返す番。
弱い下回転の短いサーブ。
勢いが無く、タイミングをずらされてしまう。
(浮いちゃった!?)
バック側への、浮いた球。
格好のチャンスボール。
(『喜柳』!)
撫でるようなラケット捌きで、ボールがほぼ真横に跳ねる。
「ツー、ワン」
(、、、次!)




