第五十四話「自由」
七対七。
互いに取っては取り返す試合展開が続いている。
次は紅のサーブ。
(私達は派手な技も出していませんし、回転も複雑ではありません)
人葉は紅の掌の上のボールを見つめながら考える。
(私達一人一人の実力は、白雲さんよりも下でしょう。それでも、このまま行けば私達が勝ちます)
紅はボールをトスし、下の方をラケットで擦る。
(ダブルスでは二人の連携が命!貴方達の連携は私達に遠く及ばない!)
紅の下回転サーブを、人葉は横に斬るようにして返した。
強い横回転を混ぜる事で、迂闊に際どいコースを狙えなくする。
真珠はこれをツッツくが、回転の影響で相手のバック側へ流れてしまう。
(ちょうど欲しい所に)
巫子は、人葉なら必ず自分の打ちやすい回転をかけると信じていた。
信じていたので、あらかじめ動く事が出来た。
以心伝心にも近いかもしれない。
(『喜柳』!)
短めの下回転に対し、下から上に撫でるように回転をかけた。
肘を上げ優しく腕をしならせる動きは、夜風を浴びて喜ぶ柳のようにも見える。
「なっ」
紅のバック側に短く飛んだボールは台に触れると右に跳ねた。
コートの外側、角度はネットとほぼ平行に飛んだ。
紅はその軌道の特殊さに対応出来なかった。
「セブン、エイト」
(攻撃が強打だけとは限らない)
巫子の『喜柳』の決定力は、回転によって生み出されている。
「ふぅ」
真珠が息を吐いて気持ちを切り替えようとしていた。
それを見て、紅は考える。
(私は、真珠が後ろにいてくれるからこれまで自由に打てた。でも、真珠の方は?私のフォローに気を取られて本来の動きが出来てなかった?)
紅は自分が真珠の足を引っ張ってしまっていると考えた。
紅が自由に動けるように、真珠に我慢させていたのだ。
「真珠」
「うん?」
紅は、真珠に提案する。
「ここからはダブルスじゃなくて、シングルスで戦ってみない?」
「えっと、どういう事?」
真珠は紅の言っている事がよく分からなかった。
これはダブルス。
テニスと異なり、必ずペアで交互に打たなければならない。
ペアのどちらか片方が欠けた状態では試合が続けられない。
「これまでは、真珠が私に合わせてくれてた。でも、それだと真珠が自由に動けなかった」
真珠も、自分のプレイを思い返してみる。
「そう言われてみれば、、、」
言われるまであまり自覚は無かったようだ。
「だから、真珠は私の事を気にせず打って。シングルスの時みたいに」
紅は、弱い自分よりも強い真珠が自由に動けた方が強いと考えた。
「私は真珠の邪魔をしない事に徹するから、その代わりに」
「私が全部決めれば良いって事ね」
真珠は自分の役割を理解した。
真珠が毎回、自分の打つ番に得点すれば、フットワークで後ろに退く手間は無くなる。
毎回得点するのは並大抵の事ではないが、真珠なら出来ると紅は信じていた。
「うん。真珠なら出来る」
そう言うと、紅はボールを掌に載せた。
四人は腰を落として臨戦態勢に入る。
(他力本願かもしれないけど、勝つためにはこれが一番良いと思う。だから、全部真珠に決めてもらう!)




