第五十三話「一進一退」
「いやー、なかなかやりますねー」
隅根の監督、出石譲侍が言った。
譲侍は動画を実況するようなテンションだ。
「完全に読まれてましたねー。やー強い!」
悔しそうだが、楽しそうでもある。
(油断していた訳ではなかった。むしろ本気で打とうとしたからこそ読まれた)
巫子は自分のミスを反省する。
「ナイス紅ちゃん!」
「うん、読みが当たって良かった」
紅は、自分と真珠の実力差をよく分かっていた。
攻撃されるのを覚悟していれば、素早く対応出来る。
ある意味、ダブルスならではの立ち回りだ。
「この調子で行くよ」
現在の得点は一対二で、箱石がやや優勢。
さらに、次も真珠のサーブ。
勢いに乗りやすい状態であるのは間違いない。
「ふっ」
真珠のサーブは、逆横回転がかかった巻き込みサーブ。
打つと左に流れるため、左利きの紅にとっては非常に打ちづらい。
それでも逆横回転をかけたのは、決定力に自信があったから。
「つ」
巫子の打球はかなり左に流されてアウトとなった。
「スリー、ワン」
(こっちの方の脅威もまだ底が見えない)
一年生にも関わらず、かなりの実力。
それでも人葉と巫子に絶望感は無かった。
「巫子さん」
「ええ」
人葉がこうして確認を取るのはいつものあれを使うべき時。
巫子はボールを掌の上に載せ、高めにトスをする。
ラケットを立て、しゃがみながらボールを擦った。
(しゃがみ込みサーブ!)
落下の勢いを使い、回転を強めたサーブ。
臼田ナナカの『鬼魅落』と似たような原理だ。
こちらは技と呼べるほどのオリジナリティは無いが、強力である事には違いない。
「あ」
紅は初めて見るしゃがみ込みサーブをどう返すべきか判断に迷った。
結果、中途半端な角度で打ってしまい、かなり浮いた。
人葉はもちろんスマッシュで決めた。
真珠は無理に返さず見送った。
「紅ちゃん、あれはしゃがみ込みサーブ。回転は強いけど、打つ瞬間の角度さえ気を付ければ意外と打てるよ」
「分かった。気を付ける」
次のサーブもしゃがみ込みだった。
紅は真珠のアドバイス通り角度をしっかり見極めた。
(よしっ!ちゃんと返せた!)
攻防は一進一退。
両者大きなミスも無いまま得点が積み重ねられていく。
「セブンオール」




