第五十二話「糧」
再び人葉のサーブ。
今度は長めの下回転。
「とっ!」
真珠は躊躇わずにドライブを放った。
(打ってきましたね)
人葉は、巫子ならこのくらいのドライブを簡単に返せると分かっていた。
「たっ!」
身体全体を左に倒しながら打ち返す。
紅はミドルに返ってきた強打をさらに強く打ち返した。
(あれを返せるとは。ですが)
人葉は紅の反応の速さを評価する。
(『粛岑』!)
ラケットを起こし、壁を作った。
黒い面に弾かれ、ボールはミドルへ飛んでいく。
真珠は当然返そうとするが、紅がドライブを打った後も身体が前に残っていたため、深追いしなかった。
ここで無理にスイングすれば紅にぶつかっていただろう。
「ワンオール」
紅は己のミスにすぐ気が付いた。
「ごめん、真珠」
「ううん、全然大丈夫。これから取り返そ」
「うん」
確かに相手のブロックは見事なコースとタイミングだったが、真珠なら十分対処出来ていただろう。
(打ち終わったら、すぐに下がる。攻撃する事に集中し過ぎて抜けてた。もっと気を付けないと)
紅の学習能力の高さは、反省力の高さとも言い換えられる。
失敗してもそれを無駄にせず自分の糧に出来るのだ。
(白雲さんの方は恐らくかなりの実力者。まともに打ち合えば勝てないレベルの。温存しようと思っていた『粛岑』を出さざるを得なかった)
人葉は二回のラリーで真珠の技量の高さを強く意識した。
(でも、七星さんの方はまだ粗が多いですね。白雲さんと比較すると特に)
狙うなら真珠ではなく紅の方。
つまり、巫子から紅に打つ番が一番のチャンス。
「巫子さん。白雲さんの球を返せれば得点に繋がるはずです」
「弱い方を重点的に狙うという事ですね」
人葉は防御型、巫子は攻撃型の選手。
人葉は耐え、巫子が決めるのが基本戦術だ。
(まずは下から)
次は真珠のサーブ。
焦らず下回転を選ぶ。
下手に横回転を混ぜると、紅に返ってきたボールまで横回転が残ってしまう事がある。
(早くも)
いきなりチャンスがやってきた。
巫子は躊躇せずドライブを打つ。
「たっ!」
ストレート、台のエッジギリギリをバウンドするドライブ。
これを返すのは困難。
「はぁぁぁっ!」
紅はそれを予想していたかのように、跳んでいた。
打つ瞬間にはしっかりと床を踏みしめていた。
「なっ」
弱いと思っていた紅に、真正面から得点された。




