第五十話「直近の」
「ナイスナイスー」
美翠が春呼とハイタッチする。
「さて、次はダブルスだな」
克磨は早速次の試合の事を考えていた。
ここまでの勝利は予定通り。
美翠と春呼はシングルス向きの選手。
そう簡単に負けはしない。
「今どうなってますー?」
体育館の扉が開けられ、男性が入ってきた。
赤いフレームの眼鏡をかけていて、カジュアルな格好をしている。
「はいっ!シングルスで二戦二敗です!」
評理が元気良く答えた。
「なーるほど。やっぱり箱石さんは強いですねー」
箱石のベンチ側に向かって歩きながら言った。
「遅れて申し訳無いですー。わたくし隅根の監督をやっております出石譲侍と申しますー」
イズシジョウジの仕草は言葉の丁寧さとは裏腹に軽い。
「あ、箱石高校卓球部の顧問の相田です。今回の練習試合を受けて下さりありがとうございます」
羽子は顧問として挨拶をする。
監督やコーチではないが、教師なのだ。
「いえいえ、こちらとしても撮影させていただけてありがたいです」
大人達が話している間に、克磨は次の試合について説明していた。
「今日は練習試合だから最後までやるけど、本来ならこのダブルスを取れば勝ちになる」
一拍置いて告げる。
「真珠!紅!ここで勝負を決めるつもりで行け!」
「はいっ!」
「任せて!」
紅と真珠は威勢良く台に向かう。
二人にはまだユニフォームが無く、トレーニングウェアにゼッケンを付けている。
「ダブルスと言えばこの二人!隅根のゴールデンペア!」
カメラの前に出てきたのは、詩与やナナカに比べて落ち着いた雰囲気の二人。
「本日もダブルスを任されました、二年の名川人葉です」
「同じく二年生の戸川巫子です。対戦相手は一年生の白雲真珠さん、七星紅さんです」
カメラを向けられた真珠はラケットを真っ直ぐカメラに向け返す。
「勝ちます!」
「が、頑張ります」
紅は右手を僅かに振る。
緊張を感じているようだ。
「紅ちゃん、緊張してる?」
「う、うん。真珠や先輩達の足を引っ張っちゃったらどうしようって、思うと、、、」
個人戦ならば、負ければ自分の負けというだけで終わる。
だが、練習試合とは言えこれは団体戦。
自分の負けがチームの負けに繋がるかもしれない。
さらに今回はダブルス。
真珠の足手まといになってしまうかもしれないというのが直近の心配事だ。
「なーんだ、そんな事かー」
真珠は特に気にしていないようだった。
「ちょっとくらいミスしても全然大丈夫!私がいるから絶対負けないし!」
過剰にも思えるくらいの圧倒的な自信。
だが紅はその自信に根拠がある事を知っている。
「、、、そうだね。うん、ちょっと気が楽になった」
これはシングルスではなくダブルス。
共に戦うパートナーがいる。
(真珠が後ろにいてくれる。私はいつも通り打てば良い!)




