第四十九話「断ち切られる」
春呼はついにナナカの『鬼魅落』を攻略し、得点した。
「しゃーっ!あと一点!」
春呼のマッチポイント。
デュースなので、一点ごとにサーブを交代する。
春呼のサーブから始められるので大チャンスだ。
ナナカのバックに速いロングサーブを放つ。
(短く打つとさっきみたいに叩かれちゃう)
ナナカは『迅雷』を避けるためにクロスへ長く返した。
日本式ペンホルダーの弱点はバックハンド。
バックに素早く返ってきたボールを、春呼はどう打つのか。
「らあっ!」
すぐに左へ跳び、フォアハンド。
しかし、完全に回り込むまでの時間は無かった。
身体の正面に向かってくるボールを打つ。
そのために上半身を思い切り左に倒した。
無理矢理位置を合わせ、身体ごとドライブを打ったのだ。
「な!?」
ナナカのフォアを低く打ち抜いた。
「ゲームトゥ鳴神さん、トゥエルブ、テン」
まずは春呼が一ゲーム取った。
この練習試合では、二ゲーム先取で勝ちとなる。
つまりあと一ゲームで春呼の勝ちが決まる。
「良い感じだ。あのサーブを返せるようになったのが特に大きい。もう少し早くても良かったと思うけど」
「まぁな。でも次からは行ける」
春呼はタオルで汗を拭きながら言った。
克磨はアドバイスを続ける。
「あと、何でもかんでも叩こうとしない事。相手はサーブが使いづらくなった分、フェイントを混ぜてくるかもしれない」
「分かった」
第二ゲームは春呼のサーブから。
流れを断ち切られる前に得点を重ねておきたい。
(まずは、これから!)
春呼は自分が出せる最高速のロングサーブを打つ。
コースはフォアへのクロス。
(速いっ!)
ナナカはそれに反応してきちんと返した。
春呼はブロック気味にバックハンドで当てる。
少し速度が落ちたボールを、ナナカが強打する。
(打ち合いなら負けねぇっ!)
春呼は素早いフットワークでボールに追いつく。
軽いラケットのおかげで、遅れる事無く振り抜けた。
「ワン、ラブ」
再び春呼のサーブ。
しかし。
「やべ」
「ワンオール」
打点がずれ、ボールが思い切りネットに突っ込んでしまった。
サーブミスで自ら流れを断ち切ってしまった。
「ドンマーイ」
美翠が緩く言った。
克磨は声を発しなかったが、春呼を睨んだ。
春呼は振り返った訳では無いが、その圧を感じた。
(ふぅ、切り替えろ)
気持ちがミスに引っ張られないように深呼吸をする。
次は相手のサーブ。
「行きます!」
ナナカは前のゲームと同じようにボールを高くトスした。
横に一回転し、バックハンドで打つ。
(下回転じゃないっ!)
打つ瞬間にラケットの面の向きを変え、上回転サーブにしたのだ。
だが、克磨にこのようなフェイントを警戒するように言われていた春呼は騙されなかった。
(だけど、分かってりゃただの上回転!)
迷わず打ち返した。
「ワン、ツー」
(バレちゃったかー)
その後も、春呼の攻撃力はナナカを圧倒し続けた。
サーブを上手く返せたのは半分ほどであったが、それでも十分。
「ゲームアンドマッチトゥ鳴神さん」
二試合目のシングルスは春呼が制した。




