第四十七話「瞬時」
ナナカは再び高くトスを上げた。
(『鬼魅落』!)
身体の回転を使ってボールに強い回転をかける。
強い下回転で、スピードも速い。
春呼は大袈裟に思えるくらいラケットを寝かせてツッツいた。
下回転に負けないようにするためだ。
「ツー、ラブ!」
しかし、今度は勢いを殺し過ぎたせいでネットに届かない。
(やっぱこうなるか)
『鬼魅落』を攻略するのに二球では足りなかった。
だが、次からは春呼のサーブ。
一転攻勢に出るにはちょうど良い。
「らっ!」
春呼のロングサーブ。
ネットすれすれを通過してナナカのフォアに飛んでいく。
(こんなの打つしかないじゃん!)
コース、回転共に強打に最適。
ナナカは迷わずラケットを振り抜いた。
クロスへの強打。
(来た!)
春呼は一瞬で一歩分移動し、相手の強打を叩き返した。
「ワン、ツー!」
「しゃああっ!」
「おおーう、気持ち良いねー」
美翠がゆっくり手を叩いて賞賛する。
圧倒的な速さ、それこそが春呼の武器。
相手のスマッシュやドライブにすら瞬時に反応して打ち返せるのだ。
「真珠、春呼さんのラケットを見た事あるか?」
克磨は真珠に質問した。
「あんまりちゃんと見た事は無いかも。日本式のペンって事は知ってるけど」
日本式ペンホルダー。
表面にしかラバーを貼らないラケット。
バックハンドは苦手だが、手首が使いやすくサーブや台上技術が得意だという特徴がある。
ラバー一枚分軽いのでスイングスピードも上げられるのもメリットだ。
「春呼さんのラケットはな、ラバーも板もとにかく軽いのを使ってるんだ」
元々軽い日本式ペンホルダーを、さらに軽く。
極限まで軽量化したラケットは、春呼のスピードを一切邪魔しない。
「だからあんなスピードを、、、」
スピード特化の春呼には、流石の真珠もスピードで勝てない。
再び春呼のサーブ。
ややミドル寄りのフォアにロングサーブだ。
「相手が追いつけない究極のスピード」
ナナカはブロック気味にラケットに当て、スピードを弱めてストレートに返す。
春呼は一瞬の内にバック側に回り込み、腕を引いていた。
「それが春呼さんの武器だ」
超高速のスイングでナナカのバックを撃ち抜いた。




