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ピンポンパール  作者: 二重名々


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第四十話「価値」

「地区大会は七月の後半。あと一ヶ月半くらいだな」


克磨は改めて目標を確認する。


「まずは地区大会に向けて、団体戦の経験をもっと積みたい」


経験が無い紅だけでなく、これまでの経験がある二、三年生と真珠にも大事な事だ。

このチームで団体戦に挑むのは全員等しく初めてだからだ。


「そこでだ、来週の日曜日に練習試合の約束を取り付けた」


「おおーそう来たかー」


美翠は感心したように言った。


「相手は?」


真珠も興味津々だ。


「岐阜の隅根高校って所だ。とにかく練習試合をやりまくってて、試合の経験値は全国トップクラスにあるらしい」


克磨は補足する。


「そのおかげか、ここ数年は大会の上位常連。去年は全国にも出てる」


「手応えはありそうだね」


実績で見れば、箱石と同等。

ちょうど良い相手が比較的近場にいたのは幸運だった。


「岐阜って言っても愛知寄りの場所にあるらしい。行くのにもそこまで時間はかからないだろう」


移動時間の長さは、意外と無視出来ない。

肉体的にも精神的にも疲れてしまい、万全のコンディションで試合に挑む事が難しくなってしまう。


「今日は隅根との練習試合に向けて、ダブルスの練習をする。団体戦ではダブルスに誰を使うかが重要になるからな」


高校卓球での団体戦は、六人チームで行うのが基本だ。

シングルスでの試合が四試合と、ダブルスが一試合で構成される。

シングルスの対戦順も重要ではあるが、やはりダブルスに誰を選出するかが団体戦の鍵となる。


「紅、ダブルスのやり方は分かる?」


アイサが確認を取る。


「実は、あんまり分かってなくて、、、」


基本形であるシングルスで強くなる事を優先していたため、紅はダブルスについて無知である。


「じゃあ実際に打ちながら教えるよ」


「それなら、アイサさんと紅でペア。女乃さんと春呼さんでペア。真珠と美翠さんは審判」


「うー」


真珠は早く打ちたいのに打てないのでうずうずしているようだ。


「ちゃんと後で交代しますから」


女乃が真珠をなだめる。


「一ゲーム先取。負けたペアは交代して審判になる」


「勝ち続ければずっと交代しないで済むって事だな!」


「ぶっ続けだとバテて負けやすくなりますけどね」


女乃の言う通り、休憩もせず勝ち続けるのは難しい。

モチベーションに繋げつつ、適度に休憩させる事も可能となる。


「紅、卓球のダブルスにはテニスやバドミントンのダブルスと大きな違いがあるんだよ」


アイサが説明を始める。

紅は真剣に聞き入る。


「それは、必ずペアで交互に打たないといけないって事。例えば私が打って女乃がそれを打ち返す。その返ってきた球を次は紅が打たないとダメ。これを常に繰り返すの」


「難しそうです、、、」


「何で交互に打たないといけないか分かる?」


アイサは答えを直接教えるのではなく、自分で理由を考えさせる。


「えーっと、、、あ!卓球はコートが狭いから、二人で打つ場所を分担出来てしまう、って事ですか?」


「正解。ペアの強い方がずっと打ち続けるって事も出来るようになっちゃうしね。他にも安全性とかコートの広さとか色々理由があって、交互に打つ事になってるの」


テニスのダブルスやバレーボールなどでは、しばしば味方と連携を取れずに接触してしまう事がある。

卓球のように狭いコートで同じボールを打とうとするしてしまった場合にどれほど危険かは想像に難くない。


「なるほど」


「交互に打つためには、打たない方が邪魔にならないように移動する必要がある。右利きと左利きのペアだと、打った後に最低限の移動だけで良いから最も有利だと言われてる」


克磨も説明を追加する。


「つまり、ダブルスでは左利きってだけで価値が高いんだ」


「左利きって不便な事も多いけど、卓球だと色々役に立つんだ、、、」


左利きである事も一つの才能であると言える。

紅は学習能力の高さに加え、左利きであるという武器も持っている。


(私にも、価値がある。役に立てる)


経験の浅い紅にも、紅だけの価値があった。

チームの足を引っ張らないで済むというのは、紅にとっては何よりも嬉しい事であった。


「ダブルスはサーブにも独自のルールがあるんだ」


「結構複雑で分かりにくいよー。わたしも未だに分かんないし」


「よくそれで今までやってこられたわね、、、」


アイサは美翠の言葉に呆れる。


「この機会に全員ルールを再確認しよう。ダブルスに出る可能性は誰にでもある」


克磨が言った。


「まず、ダブルスでは必ず自分のコートの右半分から相手コートの右半分にサーブしないといけない。自分から見れば、右手前から左奥、クロスに打つ事になる。これは左利きでも変わらない。左利きでも同じように自分の右側に一回バウンド、相手の右側に二回目のバウンドだ」


克磨が普段と同じようにフォア側、バック側という表現を使わないのは、利き手に関わらずサーブコースが常に決まっているからだ。


「右利きは左側からサーブを出す事が多いので、ダブルスではいつもと違うコースで打たなければならなくなります。左利きはいつもと同じ打ち方を出来るのでその点でも有利ですね」


シングルスと同じ動きが出来る方がもちろん便利だ。


「次に、サーブする順番についてだ。これが一番厄介かもな」


紅は息を呑む。


「まず、最初にサーブする人、じゃあ紅で。紅が二回サーブをする。サーブを打つ相手は二回とも同じ。二回サーブし終わったら、サーブ権がレシーブしていた人に移る」


克磨はピン球を紅に渡す。


「紅がサーブ、それを打つのは春呼さん。それからは交互に打っていく。ここまでは分かるな?」


「うん」


置いていかないように確認を取る。


「次も同じように紅がサーブ。春呼さんがレシーブ。その次は、さっきまでレシーブをしていた春呼さんがサーブを打つ。それを打ち返すのはアイサさん」


「それまでレシーブしてた人がサーバーになるって事だね」


真珠が一言でまとめる。


「そう。じゃあ紅、アイサさんがサーブする時にレシーブするのは?」


「えっと、女乃さん!」


「その通り。サーブが終わったら後ろに下がってペアと交代って覚え方も出来るな」


こうして紅達はダブルス、特にサーブのルールについて学ぶ事が出来た。


「ここからは実際に試合していくぞ」

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