第四話「萎縮」
「それで?他の練習もせずずっとラリーし続けていた理由は?」
「いやー、つい白熱しちゃってね」
「ごめんなさい、、、」
美翠と真珠はアイサに呆れられていた。
「まぁ、これから気をつけてくれれば良いよ」
ここからはアイサも練習に加わる。
「それより練習しよ。二年の二人と私はこっちで基礎練続けるから、美翠はそのまま一年とね」
「はいよー」
美翠はラケットをくるくると回しながら言った。
「真珠ちゃんはもう放っておいても大丈夫だね。という訳で紅ちゃんを重点的に見てあげよう」
「ありがとうございます」
「紅ちゃん、頑張って!」
真珠は素直に紅に出番を譲った。
「まずは基本中の基本からやっていこうか」
美翠は紅に近づいて言った。
「左利きなの?」
「は、はい!、、、左利きは、ダメでしょうか?」
その言葉を聞いて美翠は笑う。
「ははっ、逆だよ逆。左利きは右利きと同じ動きをすると回転が反対になるんだ。だからとっても相手しづらい。しかも右利きよりも少ないから経験も得られにくい。左利きってだけでアドバンテージになるんだよ」
「そうなんですね、、、良かったです!」
美翠は紅の背中側に回り、ラケットを持つ左手を後ろから握った。
柔らかな指の感触に紅は萎縮する。
「ラケットはこう握って、人差し指は伸ばす。握手してるように見えるからシェークハンドって言うんだよ、このラケット。他にペンホルダーってのもあるけど、より一般的なのはシェークの方かな」
美翠は別の台で打つ春呼を見た。
春呼が使っているラケットはペンホルダー。
ペンと同じように持っている。
「まずはフォアハンドの振り方から。最初はお腹の横。次に斜め上。そう。その後は下に下ろす。そして最初の位置に戻す」
何回か同じ動きを繰り返す。
「三角を描くようにラケットを動かすんだよ」
「はい」
次のステップに進む。
「バックハンドはフォアハンドの反対側で打つ時に使う打ち方。まずは、肘をちょっと曲げて、ラケットはおへその前。肘と手首を伸ばしながら、斜め前に、このくらい。打った後はお腹の前に戻す」
真珠は頷きながら見守る。
「フォアハンドとバックハンドで共通するのは何だと思う?」
紅は少し考えた。
「うーん、あ!お腹の前に戻すって事ですか?」
「そう、打った後に必ず身体の真ん中に戻すって事。相手が毎回同じ場所に打つとは限らないから、フォアとバックどちらにもスムーズに移れるようにしないとだからね」
「なるほど」
「真珠ちゃん、ちょっとフォアの素振りやってみてくれる?」
美翠は紅の肩に手を置きながら言った。
「はい!」
真珠は素振りを始める。
スムーズな動きでラケットが三角を描く。
「おぉ、、、」
美麗なフォームに感嘆の声を漏らす。
「全ての基本の上に応用がある。例え試合中でもこの基本は忘れちゃダメだよー」
「「はいっ!」」
元気良く返事する二人は新入部員そのものだ。
「本来今日は見学の日。あんまりがっつりやらずに終わっておこうか」
一通り練習が終わり、下校する事になった。
更衣室を出ると紅が言った。
「私、卓球部に入ります!やっぱり卓球楽しかったです!」
「おっ、入部確定か!真珠もだろ!?」
「はい!もちろん!」
「団体戦を四人で戦うのは大変ですからね。入ってもらえて安心です」
卓球の試合には個人戦と団体戦がある。
団体戦の場合、シングルス四試合とダブルス一試合の内三試合先取した方の勝ちになる。
「去年は何人部員がいたんですか?」
「私達の一つ上の学年は一人だけ。だから五人で全国まで行ったんだよ」
「えっ!全国大会にも出ているんですか!?」
アイサの言葉を聞いて紅は驚愕する。
強いとは聞いていたが、具体的な指標は持っていなかったのだ。
「二年連続でその年の優勝校に初戦で当たってねぇ。いやーツイてなかった」
美翠は懐かしむように話す。
「去年よりもアタシは強くなった!今年は絶対優勝だっ!」
春呼は威勢良く吠えた。
「私も頑張ります!」
真珠も呼応するように意気込む。
早くも卓球部に馴染み始めていた。