第三十八話「ノート」
「次の目標は地区大会。そこそこ手強い相手も出てくるよー」
「あれ、いきなり地区大会なんですか?」
「去年の秋の県大会で優勝してるからな!予選は突破済みって事!」
春呼は胸を張る。
箱石卓球部には二年連続で全国大会に出場する実力がある。
当然県大会も優勝している。
「地区大会は中部地区の強豪校が集まってる。それまでにレベルアップしておかないと初戦で負けるなんて事になるよ」
「頑張ります!」
真珠は元気良く返事した。
「うん、良い返事。じゃあ、ランニングから始めよーか」
靴を履き替え、ぞろぞろと外に出ていく。
「あ、克磨くん」
「はい」
美翠が克磨に声をかけて呼び止めた。
「更衣室の掃除ってした?物置みたいになってたけど」
何故今のタイミングでこんな事を聞くのかと克磨は疑問に思った。
「え、ああ、簡単に。段ボールの山をどかしてホコリを取ったくらいですけど」
「そっか。じゃあ一番奥にある白い段ボールを開けてみると良いよー」
それだけ言うと美翠は外に出ていってしまった。
「、、、何で今なんだ?」
克磨は更衣室内に山積みになった段ボールを整理してみると、一番奥の一番上に白い段ボールを見つけた。
白はくすみ、黄色っぽい染みもある。
「うぇ。これの事か」
そこまで重くないし、封をしてある訳でもない。
「、、、ノートか」
中に入っていたのは、大量のノートだった。
デザインや状態はバラバラで、一番古そうなノートは持つだけで破片がぽろぽろと落ちた。
古いノートには下手に触らないようにし、比較的新しい方を開いてみる。
「これ、全部卓球について書いてあるのか」
ノートにはぎっしりと技術や立ち回り、試合結果について記してあった。
他のノートにも目を通してみたが、やはり全て卓球について書かれている。
「おーい」
更衣室のドアの所にいつの間にか美翠がいた。
「あれ、もうランニングは終わったのか」
「ランニングどころか基礎練まで終わってるよー」
「なっ」
克磨は自分がノートを読むのに夢中になり過ぎていた事に気付いた。
「そのノートは箱石が積み重ねてきた叡智の結晶。克磨くんなら釘付けになると思ったよ」
「これ、歴代の部員達が?」
練習の時間が迫っていると分かりつつも克磨は聞かずにはいられなかった。
「そう。まーその内三十冊くらいはわたしの一個上の先輩が書いたやつなんだけどね」
克磨は改めて大量のノートの方を見た。
百冊は超えているだろうノートには、これまで受け継がれ、高められてきた叡智の結晶が詰まっている。
そう考えただけで克磨の口角は上がっていた。
「美翠さん、これ、写真に撮っても良いか?」
「良いけど、全部写真に撮るの?」
「ああ、全部。もちろん、今じゃなくて時間がある時にだけど」
克磨は急いで練習に合流する。
「先輩達も嬉しいだろうね」




