第三十四話「伸び」
凛子が何故自分が失点したのか理解するまでに少し時間がかかった。
真珠のミドルを狙ったバックドライブは完璧だったはず。
だが、真珠が奇妙な動きをした直後、ボールが凛子の方へ返ってきた。
ラケットを大きく後ろに引き、上体は前に倒す。
スピードスケートの選手がスタートする時の構えに近い。
身体のすぐ近くを通って、ラケットで切り上げる。
「やっと使えたな」
克磨がにやりと笑う。
その様子から、紅は気付いた。
「もしかして、今のが?」
「ああ。真珠だけの技。実戦で使うのは初めてだけど、ちゃんと通用するみたいで良かった」
もちろん克磨は実戦で使えるレベルにまで真珠の技を磨いていたが、それでも実際に得点した所を見るのを嬉しく感じていた。
「槍のように伸び貫くドライブ!この技を『槍貫』と名付けましょう!ね!良いですよね!」
テンションが上がった晶保が勝手に名付ける。
卓球の標の記事は独特な言い回しが多いが、それは晶保のような感性を持つ記者ばかりが集まっているからなのだろう。
「は、はい。何でも良いですけど」
本人に許可は取っていないが、標のファンである真珠ならどんな名前でも喜ぶだろう。
(今のはドライブ?前に伸びるし横にも少し曲がる。こんなの見た事が無いわ)
凛子に与えられた分析の時間は少ない。
サーブを打たないといけないのもそうだが、一ゲームも取られてはいけない状況にあるのだ。
(身体に近いコースを狙うとあれにやられる。下手に狙わない方が良いわね)
凛子はロングサーブで真珠のバック側を狙う。
ストレートに打ったため、距離はやや短くなる。
距離が短くなれば打つまでに考える時間が減る。
凛子はとにかくスピードで勝負するしか無かった。
少しでも遅い球は叩かれると考えたからだ。
(長めに)
真珠はラケットに軽く当て、バックへ長く返した。
対する凛子は真珠の技を警戒して左右に大きく揺さぶるべくフォアに短く打つ。
真珠の『槍貫』は、下に溜める通常のドライブと異なり、後ろに向かって溜める。
これによりボールが前に飛ぶ力が強くなり、バウンドしてからの伸びが増すのだ。
決定力のある『槍貫』を避ける凛子だが、それも良くなかった。
「たっ!」
真珠が横向きに飛び、思い切り叩く。
「ファイブ、ワン」




