第二十八話「自覚」
「お疲れ」
「負けちゃった」
紅は克磨に報告する。
「ああ」
「でもね、あんまり悔しくないんだ」
紅は直前まで自分達が試合をしていた台の方を見ながら言った。
「何て言うか、負けて当然って思った。あ、別に最初から諦めてた訳じゃないよ!全力で試合したし!ただ、積み重ねてきたものはそう簡単にひっくり返せないなって」
「分かってるよ」
真珠に試合で負けても、先輩達に試合で負けても、紅は悔しがらなかった。
自分の実力が圧倒的に足りていないと自覚しているからだ。
絶対に届かないと分かっていて悔しがる事は出来ない。
「これから積み重ねていこう。そして、勝とう」
「うん!」
「ゲームアンドマッチトゥ荒川」
「対戦ありがとう」
紅は無事に得点係を終え、一安心した。
審判のコールの仕方が分からなかったからだ。
得点係なら見よう見まねでも何とか出来る。
実際は得点板の使い方にも決まりがあるのだが、この大会ではほとんど気にしていない。
「真珠の試合はもう終わってるかな?」
紅は他の台の様子を窺ってみる。
他に試合をしている台は一つだけ。
真珠はそこにはいなかった。
「紅ちゃーん!」
真珠が人の波をかき分けて紅の方にやってきた。
「あ、真珠。試合どうだった?」
「もちろん完勝!」
真珠は一度も失点せずに準決勝まで勝ち上がっていた。
このまま次も勝てば、荒川凛子と決勝でぶつかる事になるだろう。
「やっぱり真珠はすごいね、、、」
「まぁね。世界一になるためには、こんな所で苦戦してられないし」
真珠の目標は世界一の卓球選手。
県の一年生だけの大会など、夢への第一歩どころか言わばその前の息を吸う段階なのだ。
「真珠、油断はするなよ。無失点にもこだわるな。とにかく勝つ事に集中だ」
「うん、分かってる」
克磨に釘を刺される。
「決戦を前にし、闘志に満ち溢れた眼差し!見据えるのは勝利か、その先の何かか。それともその両方を掴み取らんとするのか!」
少し離れた場所にいた晶保が興奮しながらタブレット端末に何かを書き込んでいる。
克磨は冷めた目でそれを見る。
「あの人、実はやばい人じゃないのか」
「あはは、、、」
紅は苦笑いした。
「あれが、標の記事の元に、、、。かっこいい記事になりそう!」
真珠は目を輝かせていた。




