第二十七話「来る」
「ファイブ、ワン」
凛子に連続で得点され、既に五点も取られてしまっている。
紅の一点も、相手のミスで取っただけに過ぎない。
(ここまでの五点は全部バックドライブで決められてる。完全に遊ばれてるな、、、)
克磨は歯噛みした。
選手のポテンシャルをどれだけ伸ばせるかはコーチの技量次第。
もっと上手く指導出来ていれば紅はこの強敵に打ち勝つ事も出来たかもしれない。
(何が足りないのか知る、か。偉そうにそんな事求めておきながら、オレが一番足りてねぇじゃねぇか)
「ワン、シックス」
(今、こんな事考えても仕方ない。それよりも紅の応援だ。オレの考え事なんかで紅のメンタルに影響を与えるな)
「脚動かしていけーっ!」
(手だけで打ちに行っても返せない。ちゃんとフットワークして、身体ごと動かないと!)
紅は状況を打開するための策を探し続けていた。
バックドライブを打たせないためにフォアを狙うと強烈なフォアハンドで返されやすい。
利き手側から打つフォアハンドは基本的にバックハンドより強いのだ。
強いフォアハンドを返すとボールが浮いてしまい、これもバックドライブの餌食になる。
バック側に打つと、バックドライブが飛んでくる。
並の回転ではドライブを阻止出来ないし、ドライブ自体の回転も強い。
凛子は実績に相応しい実力を持っていると言える。
「ワン、セブン」
またしてもバックドライブで得点されてしまった。
(半端な球じゃ無駄に失点しちゃう。思い切って打たないと)
凛子のサーブ。
短めの下回転で、ツッツキを誘う。
ツッツキによる遅めの球はバックドライブに繋がる。
(来る!)
バックドライブが来る。
紅はこれまでの凛子のプレイからバックドライブの軌道を予測した。
予想通り相手のバックからクロスに飛んでくる。
(このバックドライブに勝つには、これしか無い!)
バックドライブを、ドライブで返す。
ドライブはスマッシュほどでは無いが速いボール。
打たれてから溜め始めていては間に合わない。
(私のバックドライブの軌道を読んで、あらかじめ溜めていた!?)
紅は凛子のサーブをツッツキで返した直後から既にドライブの溜めの動作に入っていた。
「たあぁぁっ!」
ドライブによる強力な上回転を、同じく上回転で返す。
相手の上回転と自分の上回転は方向が逆。
つまり、既にかかっている強い回転に逆らって打たなければならないのだ。
しかし、それだけが紅に残された活路。
(入ってくれ!)
克磨は祈る。
回転量自体は拮抗していた。
回転はほぼ相殺され、緩いボールが凛子のミドルに飛んでいく。
「んっ!?」
ドライブを放った直後の僅かな隙を突いて、凛子の胸元にボールが飛び込んだ。
台にもギリギリバウンドしている。
つまり。
「セブン、ツー」
「やった!」
「よし!良いぞ!」
自分の力で勝ち取った点。
一瞬とは言え強敵を上回ったのだ。
「やるわね、、、もうなめてかからないわ」
「ゲームトゥ荒川。イレブン、ツー」
その後、紅は一度も得点出来なかった。
「ゲームアンドマッチトゥ荒川」
「ふぅ、、、はぁ、、、今の実力は、出し切ったかな」




