第二十六話「打ち上げ」
三回戦第四試合。
「箱石高校、七星さん。犬木高校、荒川さん」
紅の相手はホームである犬木高校の選手。
「荒川凛子。ここまで一ゲームも落としてない強敵だ」
「紅ちゃーん!頑張ってー!」
紅は背中で答える。
今の実力を出し切ると。
「よろしくお願いします」
「よろしくね」
凛子のサーブから試合が始まる。
(上!)
サーブを打つ瞬間のラケットの向きから、サーブにかけられた回転を読む。
「なっ」
予想以上のスピードに、紅はボールを高く打ち上げてしまう。
相手コートにも入らず、一瞬で失点してしまった。
回転よりもスピードを重視し、相手の意表を突く作戦だったらしい。
(一番最初にこのサーブを持ってきたのはインパクトを与えるため。だから次も同じサーブで来る可能性は低い!)
凛子のサーブはさっきと同じ上回転のサーブ。
しかしさっきよりスピードが遅い。
紅は落ち着いて、面の角度を意識しながら相手のミドルに返す。
上回転が強く、紅のレシーブが浮いてしまった。
(打たれる!)
スマッシュを警戒し、紅は一歩後ろに下がった。
「はっ!」
高い球をあえて叩かず、最大まで溜めたドライブで決めた。
紅は位置とタイミングをずらされたために反応出来なかった。
(もう二点も、、、)
「まずいな、完全に相手のペースだ」
長椅子に座った克磨が呻く。
「相手の荒川さんは中学時代県大会個人の部で準優勝しているようです。今日の優勝候補の一人ですね」
晶保が持つタブレット端末には荒川凛子の写真が表示されていた。
これまでの戦績なども共に記録されているようだ。
「、、、紅は多分勝てない。だけど、簡単には負けるなよ」
この大会は本来、一年生の実力を向上させる合同練習の一貫。
そこまで勝敗にこだわる必要は無い。
それよりも自分に何が足りていないのかを知る方が大事だ。
(勝ちたい。こんなに強い相手に、勝ちたい)
それはそれとして、紅は勝ちたいと思っていた。
「ゲームトゥ荒川。イレブン、ファイブ」
一ゲーム目を落とした。
この大会は決勝戦以外は二ゲーム先取で勝利となる。
紅はもう王手をかけられている。
(なかなかやるわね。でも、私には絶対勝てないわよ。なぜなら)
凛子は紅の弱点を見破っていた。
紅の下回転のサーブをツッツキで短く返し、体勢を整える時間を生み出す。
紅はそれをクロスに長く返した。
(あなたは、基本しか出来ない!)
凛子のバックドライブが炸裂した。
紅のラケットを登るようにボールは上に打ち上げられた。
「ラブ、ワン」
(教科書通りの打ち方しか出来ないなら私のバックドライブは攻略出来ないわよ?)




