第二十四話「見る」
「クレイジースノウ号と言えども、渋滞には手こずらされてしまいましたね」
白い軽自動車から降りたのはビジネスシャツに長い黒髪の女性。
スラックスが長い脚を際立たせている。
「もう大会は始まっているのでしょうか。早く行かなければ」
犬木高校の体育館は二階にある。
「週刊学生スポーツの者です。遅れてしまって申し訳ありません。事故で渋滞が発生してしまったようでして」
「いえいえ、お気になさらず。さぁ、お入り下さい」
運営の教員に案内され、体育館の中に入る。
「つい先程トーナメントが始まった所なんです」
「なるほど、それはちょうど良い。早速見せていただきますよ」
その女性は長椅子の前で立ったまま試合を見始めた。
タブレット端末にタッチペンで書き込み、会場や試合について記録していく。
「何かありましたらご気軽にお伝え下さい。では」
教員がいなくなった事にも気付かず、夢中で試合を観戦する。
「たっ!」
ストレートへの強打で得点する。
十対五、マッチポイントになった。
「マッチポイント」
(あと一点で、一ゲーム取れる。二ゲーム先取で勝ちだから、相手にはもう後が無い!)
紅は初の対外試合を優位に進めていた。
(紅ちゃん、結構良い感じ)
真珠は審判として紅の試合を見ていた。
身内に贔屓する事は決して無いが、心の中では紅を応援している。
「レット」
相手のサーブがネットにかかった。
ネットを越えて相手コートに入ったためサーブをやり直す。
(ちょっと高かったかもっ)
レシーブが浮いてしまい、相手は攻撃の構えに入る。
紅は素早く一歩下がり、相手の目を見る。
視線やラケットの向き、フォームからコースを予測する。
ラケットを壁のように立て、相手の攻撃を跳ね返す。
ブロックと呼ばれる技術だ。
「よし!」
紅が一ゲームを先取した。
コートチェンジの際、選手はベンチコーチに一分以内のアドバイスを受ける事が出来る。
「このまま次も取るぞ。ミドルへの長い球が結構効いてるから、要所要所で使っていこう」
「うん、分かった!」
克磨は手短にアドバイスする。
その様子を見て近くにいた女性が克磨に話しかけた。
「あなたはあの選手のコーチなのですか?」
「え、はい。そうですけど」
克磨は急に話しかけられ、やや困惑する。
「私は週刊学生スポーツ卓球の標、記者の吹田晶保と申します。少しお話を伺っても?」
「えーっと、この試合が終わった後で良ければ」
「ええ、もちろんですとも。私としても試合はしっかり見たいですからね」
晶保はいつの間にか克磨の隣に座っていた。
試合は間もなく再開される。




