第十九話「抗議」
時はあっという間に流れ、五月に突入。
克磨と紅に課せられた、二週間であらゆる技術をマスターするという課題の期限がやってきた。
「じゃあ克磨。紅がどれだけ成長したか教えてくれる?」
アイサは台を挟んで立つ。
紅は比較的落ち着いた様子でラケットを構える。
「はい。紅、まずはサーブ三種類からだ」
「うん」
紅は速い上回転のサーブを成功させる。
「低く速く打てるようになったみたいだね」
続いて下回転のサーブ。
アイサがラケットを軽く当てると、ボールが下にすとんと落ちた。
「回転もかかってる」
最後は、ラケットで横に擦るようなサーブ。
左利きの紅の場合、同じフォームでも回転は右利きの逆になる。
「へぇ、横回転も出来るんだ。すごいじゃない」
「ありがとうございます!」
紅は嬉しそうだったが、克磨はまだ満足していない。
「次はレシーブを見せます。サーブお願いしても良いですか。コースも回転もお任せで」
「分かった」
初球はフォアに長めの上回転。
卓球における長い、短いとは、ネットからの距離。
長い球はネットから遠く、身体に近い。
滞空時間の長さと言い換える事も出来る。
「ストレート」
克磨の言葉に反応し、真っ直ぐ強打で打ち返す。
アイサはそれをカットでクロスに返した。
カットとは、後ろに下がって下回転で返す技術。
守備的な打法だ。
「ツッツキ」
台の上で、下回転を下回転で返すのはツッツキ。
ラケットを寝かせ、突くような動きでボールの下側を擦るのだ。
ツッツキで短くネット際に返した。
「うん、ちゃんと出来てるね」
アイサはツッツキで長めに返す。
紅はフットワークで最適な位置に素早く移動する。
「ドライブ!」
素早く移動した分、ドライブの溜めの時間をしっかり取れた。
「はあっ!」
強い上回転がかかったドライブがアイサのバックを跳ねる。
アイサは追わない。
「よし、ちゃんと出来たな」
克磨は紅の仕上がりに安堵する。
「マジで二週間で全部出来るようになったのか!?半年以上かかるよな普通?」
「ええ。しかもどれも完成度が高いです。一年生とは思えませんね」
春呼と女乃が紅の成長に驚く。
紅は褒められて嬉しそうだ。
「か、克磨くんのおかげです!教え方がとっても上手くて、どうしたら良いか何でも分かっていて、コーチに向いていると思います!」
紅は、克磨が正式なコーチとして認められるように太鼓判を押した。
お世辞ではなく、紅が感じたそのままの本心だ。
「克磨くん」
少し離れた場所から見守っていた美翠が近づいてきた。
「合格!」
至近距離で大きな声を出された克磨は驚いて一歩後ろに下がった。
「紅ちゃんの才能を活かして育てたのは君の実力だよ。是非ともその指導力をわたし達にも向けてもらいたいねー」
「やったね!克磨くん!」
紅は克磨の肩を掴んで飛び跳ねる。
「あ、ああ。、、、オレの指導は厳しいですよ。もう初心者はいませんからね、手加減無しです」
(今までの指導って手加減されてたの、、、)
紅はまだ見ぬ克磨の本気の指導に恐ろしさすら覚える。
「はいしゅーごー」
美翠の号令で部員が集合する。
「正式なコーチになった克磨くんからこれからの指導についてお話してもらおーか」
克磨は一歩前に出る。
「これから指導するに当たって、知っておいてほしい事がいくつか。まず、あんまり敬語は使わない。使い分けが面倒だし、そこに思考回路は使いたくないから」
「生意気じゃないですかー?」
真珠が抗議する。
「必要な事だけ簡潔に伝える方が指導される側も楽だ。別に先輩達へのリスペクトが無い訳じゃない。良いか?」
「まぁ、そういう事なら」
「アイサさんが言うなら別に良いけど、、、」
アイサが了承する。
他の者も納得したようだ。
「次に、全員のプレイスタイルを把握するために、個別でミーティングをする。ラケットとラバーもその時一緒に見る」
選手の事を知らなければ、指導は出来ない。
「最後に、練習メニューは全部オレが管理する。以上、何か質問は?」
真珠が手を挙げた。
「はい!」
「真珠」
「早く卓球したいです!」
「質問じゃねぇ、、、」




