第十八話「手本」
その日から紅は別メニューになった。
ランニングや台の準備などが終わると克磨とマンツーマンで練習する。
「まずは現状を確認しておきたい。球出しするから一通り打ってみてくれないか?」
「うん!」
克磨はカゴに貯められたボールを軽くスムーズに打ち出していく。
「球出しくらいは出来るんだ、、、」
遠目に見ていた真珠が呟く。
「基本は出来てるみたいだな。もう少し安定して打てた方が良いけど」
「素振りとかフットワークとか、家で出来るのは毎日やってるんだけど、実際に打つと上手くいかなくて、、、」
克磨はそれを聞いて少し考える。
「それなら、実際に打つのを増やした方が良い。ボールでリフティングするのがオススメだな」
克磨は手本を実演しようとしたが、上手くいかない。
「ま、やってみてくれ」
「えっと、ボールを軽く真上に打てば良いんだよね」
紅はボールをカンコンとラケットの上で跳ねさせる。
「やっ、ほっ、よっ、あっ!?」
ボールが斜めに飛んでしまい、連続記録が途切れる。
「打つ時の面の向きとか、ラケットの中心で打つとか、そういう感覚を掴むのに良い。らしい」
説得力はあるが、信憑性は無い。
克磨自身の体験に基づいていないからだ。
「なるほど。これも毎日やってみるね」
「下を擦ると下回転になる。下回転を球を相手が打つとどうなるか分かるか?」
克磨はボールを手で持ってどう回転しているかを示す。
「相手が打つと、こう回転がかかってるから、下に落ちる!」
「そうだ。下回転を打つと下に落ちて、逆に上回転は上に浮く」
紅は克磨から様々な技術を教わり、吸収していく。
紅の物覚えの良さが克磨の指導をより効率化させている。
「克磨くん、バックのツッツキで短めに打つ時によくネットにかかっちゃうんだけどどうしたら良いかな?」
「ああ、そういう時は、、、」
休み時間にも克磨に質問しに行く。
紅は非常に意欲的だ。
(紅ちゃんを取られた!)
最初は真珠が紅に教えるつもりだったのだが、その役割を克磨に奪われてしまった。
「なぁ観空、七星さんと最近仲良いよな。もう付き合ってる感じ?」
ある日の休憩時間中、克磨が友人と話していた。
「いや、紅とはそういうのじゃないって」
「お!それなら俺に紹介してくれよ!正直七星さんドタイプ」
「あー、お前じゃ無理だな。超強力なライバルがいるから」
友人は驚愕する。
そして克磨に詰め寄る。
「なっ、誰だよそいつ!知ってるんだろ!」
「じゃあヒントだけな。頭文字はた、だ」
「た!?竹内か、田中か?いや、下の名前なら太一とかも、、、」
頭を捻りブツブツ呟く友人を見て克磨は笑う。
「ははっ、いつ正解に辿り着けるのやら」
「ドライブは上半身だけじゃなく、下半身もしっかり使う必要がある。膝を曲げて、身体全体をバネみたいに縮めるんだ」
「このくらい?」
紅はドライブの溜めの部分をやってみる。
克磨に細かい修正をされる度、同じ箇所は間違えなくなる。
「克磨、ちゃんと教えられてるみたいね」
「やっぱりわたしの見る目は間違ってなかったよ。仕上がりが楽しみだー」




