第十六話「恨み」
「卓球部のコーチ?オレがですか?」
克磨は困惑する。
「そうです。あなたの事は色々聞いていますよ」
「じゃあ断ります」
「「えっ」」
真珠と紅は驚いて思わず声を発した。
「オレはもう卓球には関わりません。色々聞いたのならその理由も分かりますよね」
克磨は何故か卓球と距離を置こうとしているようだ。
「いえ、何も知りませんよ。プロの卓球選手だったお母様と自分の才能の差に絶望し、お母様に恥をかかせたくなくてやめたなんて事は全く知りません」
「それ、知ってるって言うんじゃ、、、」
紅は苦笑いをする。
「お母さんが卓球選手だったの!?」
「、、、ああ。天藤珠美って言えば分かるか?」
「天藤珠美!?オリンピック二大会連続銀の!?」
真珠は興奮して大声を出す。
「私も聞いた事あるかも」
これまで卓球を深く知らなかった紅ですら名前を知っているレベルの選手。
「母さんはな、すごい選手なんだ。でも、オレは違う。卓球の才能は全く無いし、何ならスポーツ全般が苦手だ。努力はしたよ。物心ついた時から中学まで練習し続けたし、体力作りも技術の研究もした」
克磨は恨みを吐き出すように語る。
「オレは強くならなかった。母さんという最高のコーチがいても、母さんの遺伝子を受け継いでいても。だからもうやめた」
克磨の目は悲痛と諦観に満ちている。
「なるほどねー」
真珠は軽く言った。
「でも卓球が嫌いとは一言も言ってないよね」
克磨は母親の才能を引き継げなかった事が原因で卓球をやめた。
卓球が嫌いだからやめた訳ではない。
「卓球は好きだけど、銀メダリストの息子が弱いければ恥をかかせる事になるからやめた。要するにこういう事でしょ?」
克磨は黙る。
「好きならやれば良いよ!卓球!」
真珠は克磨の目を真っ直ぐ見て語りかける。
「上手くなくてもプレイして良い!選手以外でも良い!何でも良いから関わらなくちゃ!卓球が好きなら!」
女乃は一歩後ろから微笑んで見守っている。
「でも、オレは、一度やめた」
「それなら、始める時の楽しさをもう一回味わえる」
その言葉を聞いて克磨は初めて笑った。
「ははっ、何だよそれ」
克磨の心が動き出す。
「言っておくけど、オレの理想は高いぞ。なんて言ったって母さんをすぐ近くで見てきたからな」
「じゃあっ!」
紅は克磨の言葉の意味を理解して、喜んで確認する。
「ああ、やるだけやってみる。コーチとして、もう一度卓球に関わる」




