第十一話「考えて」
「紅ちゃーん!」
先に集合場所に到着し、待っていた紅と合流する。
真珠は駅前の大きな時計を見る。
待ち合わせ時刻の五分前だ。
「ごめん、待った?」
「ううん、全然大丈夫だよ」
「いつから待ってたの?」
「今から十分くらい前かな?真珠に私の買い物に付き合ってもらうのに、遅刻なんて出来ないよ」
紅は普段からこういった事に気を付けているのだ。
電車に乗り、都市部へ向かう。
「こういう所、初めて来たかも」
紅は大型のスポーツショップに恐る恐る足を踏み入れる。
「卓球コーナーはこっちだよ」
真珠はぐいぐい進み、先導する。
「わぁ、、、」
紅は目の前に広がる光景に思わず声を漏らす。
ラケットやラバーなど、卓球に関する商品が大量に並んでいた。
「まずはラケットだね」
紅は道具を今日一日でまとめて揃える。
テンポ良く決めていかなければ時間がいくらあっても足りなくなる。
「シェークハンドだと、、、これとか良いかも」
「ラケットって物によってそんなに違うの?」
紅は素朴な疑問を口にする。
「結構変わってくるよ。重さ、反発力、もちろん握りやすさも」
真珠はラケットが入ったケースを紅に見せる。
ラケットにはラバーが貼られておらず、木の部分がむき出しになっている。
「これは一番スタンダードなラケットで、どんなプレイスタイルでも使いやすいんだ。ラケットによって特に変わるのは板の部分の枚数かなー。多ければ多いほど反発しやすくなって打球の威力が上がるけど重くなっちゃったりするよ」
「うーん、まだちょっと分からないかも?」
紅は首を傾げている。
「そうだ、私ラケット持ってきたから、、、これで説明するよ」
真珠はバッグからラケットを取り出す。
「あ、ここの事だったんだ」
実物を見ながら説明を聞く事で紅はラケットごとの違いについて理解した。
「次はラバー。ラバーには大体三種類あって、それによって全然変わるんだよ。卓球は球技の中でもトップクラスに回転が大事な競技。回転をかけるラバーも超大事だよ!」
真珠はサンプルとして置かれているラバーを見せながら説明する。
「これが裏ソフト。平らな面で打つから、摩擦が大きくなって回転をかけやすいのが特徴だよ。一番使ってる人が多いラバーだし、迷ったら裏ソフトから選べば間違い無いと思う」
「うん。回転が大事な卓球で、回転をかけやすいラバーはもちろん人気になるよね」
別のサンプルを見せる真珠。
「これは表ソフト」
「わ、つぶつぶしてるね」
裏ソフトとは逆に、粒状の部分が外側にある。
「こっちは摩擦が少なくて回転量は減るけど、スピードが出やすいよ」
更に別のサンプルを隣にあったものと並べるように紅に見せる。
「それで、こっちが粒高。表ソフトに似てるけど、粒が高いから相手の回転が残ったまま相手に返るんだよ」
「あ、もしかしてそれって変化球になるんじゃない?」
紅は自分なりに考えてみた。
真珠は一瞬、呆気に取られたように黙った。
「あの、ごめん、適当な事言っちゃって、、、」
「ううん!違う違う!紅ちゃんが言った事は合ってるよ!こうやって自分で考えてるから飲み込みが速いんだなーって思って」
真珠はあまり物事を深く考えるタイプではない。
だからこそ、考えて成長する紅を素直に尊敬する。
「あ、ありがとう」
真珠は改めて説明を始める。
「それでね、粒高は変化球が出しやすくて相手のミスを誘えるラバーなんだよ。じっくり粘り強く戦えるけど、自分から回転はかけにくいから上級者向けかな」
こうして真珠と紅は必要な物を選んでいく。
ラケット、ラバー、シューズ、トレーニングウェア、ラケットケース、メンテナンス用品など、必要な物はほとんど買った。
「とんでもない額が一日で、、、」
真珠も流石に一日でこれだけ買った事は無い。
観賞魚店は特別儲かる訳では無い。
「大丈夫!こういう時のためにいっぱい貯金してきたから!」
紅本人は大して金額を気にしていないようだ。
「それと、こんなに大荷物で帰れるの?」
重そうな大きな袋を抱える紅を心配する。
「駅から家まではすぐだし、トレーニングだと思えば!」
紅は前向きだ。
卓球に対するモチベーションが非常に高い。
(私も紅ちゃんのやる気に応えないとね)
真珠は新人強化大会までに紅を強くする事を決意した。
紅がもっと卓球を好きになってくれる事を真珠は望んでいる。




