総帥閣下と女神さま
「死んで下さい」
「な、何を……」
私は、思わず声を漏らす。そしてピストルを突きつけている彼女を見る。
「アイル様……あなたを殺すのです」彼女はそう言うと引き金を引いた。
パフン…… 枕がサイレンサー代わりになり大きな音はしなかった。
最後に見たのは人を殺そうとする女の目ではなかった。それは大切な人を失った時に流すような美しい涙をため、今にもへたりこんでしまいそうな女の顔だった。
う、う、ふわふわした感覚だ。あぁ、ここどこだ……死んだのか? 俺は、暗い空間を漂っていた。体は、俺の、アイルではなく吉野航太のもだ…そして意識が少しずつはっきりしてきた。転生して…軍議のあと、リースとかいう女に撃たれた気がする。いや、撃たれたはずだ。じゃあやっぱり死んだ…
「お見事でした!」
どこからともなく声がする。
俺は、声のする方を向くとそこには、白い羽の生えた小さな女がいた。
「いやぁ君がんばったほうだと思うよw」
女はおかしそうに笑いながら言う。
「はぁ、あのー俺死んだんですよね?ここは天国とかですか?」
俺は尋ねる。
「いや、君はまだ生きてるよ♡」
女は答える。
「えーっと、じゃあ貴方は誰ですか」
すると彼女は、少し驚いたような顔をしたが、すぐにまた笑い出した。
「ふっははははははっあははっ、やっぱ君面白いね!私はね神様だよ。一応ねw」
「ふーん神様ね」
「私はね、戦いの女神なの、で、神様同士で君がさっきまでいた世界の人間たちの戦争を観戦していたんだけど、他の神と賭けになっちゃってね。私、ノリでドイルの勝利に賭けちゃったの。そしたら、なんかドイル滅びそうじゃん、で、ちょっとズルだけど、助けることにしました♡」
「で、俺が転生して、あんたの賭けのためにドイルを勝利に導けってことね、でもなんで俺なんだ」
「本当は有名な軍略家とかがいいんだけど、そういう人たちはマークされててね。で、君ならバレないし、あと、よくお布団の中で、俺は軍師タイプ、戦乱の世なら…とか妄想してるじゃん。あと女の子になったら…とかさw」
「は、はぁ?べ、別に。な、なんでバレてるんだ」
恥ずかしい……なんでもお見通しなのか。これだから神様ってやつは…
「まぁ、君を選んだ一番の理由は面白そうだったからだけどね♡あと、一応スキルもつけておいたんだ。1つはタイムリープ。君が死ぬと発動する。君が諦めない限りね。ちなみにこの力は、少しずつ弱まって初めに転生した時間より少し後になるから気をつけて。2つめは、観察眼。戦略ゲームみたいにキャラや兵器のステータスが見れる。恥ずかしいかもだけど、「ステータス」って唱えてね。」
「異世界転生の王道だ」
「3つめは、扇動スキル。君の言葉は通常の数倍、相手に影響を与えやすくする。ちなみにスキルは偉業を成すごとに増えるからゲーム感覚で頑張ってね♡
」
「で、俺はまず何をすればいいんだ?」
「とりあえずは、首都の防衛だね。私が助けてあげてもいいけど、それじゃつまらないでしょ。君の軍略と奮闘が見たい。一応戦いの女神さまなので♡」
「わかったよ。あんたのことはなんて呼べば?」
「じゃあ…ヴァルちゃんで♡」
「わかったよヴァル。頑張ってみるさ」
「うふふ。流石ゲーマー負けず嫌いだ。もうわかってると思うけど、君の敵は外部だけじゃないからね〜♡」
女神が手を差し伸べる。俺は手を掴む
同時に閃光が煌めき、俺は意識を手放した。
「アイル様…アイル様」
目を開けると、そこにはユスティアがいた。
どうやら俺こと、私は、異世界に戻ったようだ。パジャマを確認したが、胸に風穴は開いていない
。
私は、辺りを見渡す。ベッドの脇にユスティア。これは今朝の出来事だ。どうやら女神が言っていたタイムリープは本当らしい。
「お食事とお召し物の準備こちらに用意いたしましたので、私は外で待機させていただきます。一時間後に軍議と致しますので、ご準備お願いいたします。それでは失礼いたします」ユスティアは敬礼をして部屋を出ていった。私は、彼女が出て行ったことを確認すると、ベッドに再び潜り込んだ。眠るためではない。これが二度目のループ世界であるならば、一度目と同じことが起き、そして最後にはリースとかいう女に殺されてしまう。確か、リース……どこかで聞いたことのある名前だ。そして、あの時感じた違和感。やらなければならないことが、頭の中を駆け巡る。
まず、私がすべきなのは、敵と味方の情報収集だ。敵の動きを知っておかないと、戦争なんてできないし、逆に相手の情報さえあれば私は戦えるはずだ。
私はベッドから飛び起き、軍服に着替えご飯も食べずに部屋から飛び出した。
「アイル様……どちらへ行かれるのですか?」