少女?との出会い
ついに登場します。ヒロイン。
さて、この二人にはどんな旅路が待っているのでしょうか?
《少女?との出会い》
目を覚ますと、見慣れない天井が映る。
どうやら、助かってしまったらしい。全身をベッドに預けている体勢からも分かる、腕には点滴が刺さり、体勢を起こすことすらきつい全身の麻酔の感覚。ここは病院であることに間違いはないだろう。
しかし、何故だ。最期の記憶では自分しかいない部屋の中で倒れたはず、心配して様子を見に来るような家族もいない、頻繁に電話やチャットで話すような友人や恋人もいない。
まさか、家にたまたま訪れた美少女フィギュアの宅配業者が助けたとでもいうのか!
麻酔のせいでボーッとする脳ミソで思考を張り巡らせる。
「あーっ!」
「起きたんだね、君。調子はどうだい?どこか痛いところはないかい?」
病室に突然入ってきた少女はそういいながら、返事を聞くまでもなく、ベッドに伏せている俺の身体に跨り胸に手を当てた。この少女に俺は見覚えはないが、朝陽差すこの病室の一室で彼女の持つ朱鷺色の髪はとても輝いて見える。
「ふんふん。心臓はちゃんと動いているみたいだね、安心安心!」
やはり、麻酔のせいか反応が遅れた俺はようやく第一声を放つ。
「おい、どけろ。くそ女」
目の前の生意気な少女くらいと力任せに引っぺがそうとするがまたも麻酔のせいで、力は入らない。
「命の恩人にそんな態度とっていいのかなあー。大体、君の力じゃアタシのことをどうにかすることなんて出来ないんだけどね」
どうやら、この性格の悪さがにじみ出た表情でこちらを見下ろしている少女が俺を助けたらしい。
「命の恩人ってな~、こちとらやっと死ねたと思って❘」
「そんなことは言わないで❘」
彼女は俺の言葉を遮った。
「生きる意味なら、アタシと探しましょう」
その言葉は何故か心に刺さった。24年間、何も意味を持たずに光のない世界に生きていたからだろうか、目の前に美少女がいるからだろうか。俺の心は踊りだす。
「-。急に何なんだ、そしておまえは誰なんだ」
気を取り直し、容量の得ない先ほどまでの彼女のセリフを問いただす。
「そうだったわね、では、名前から!
アタシは奏。竜胆奏よ。
君を相棒にするべく、命を助けてあげた張本人なのだ」
新情報が名前しかねえじゃねーか。俺がここにいる経緯もお前とこうやって二人で話す理由も分からないままじゃ・・・
「お前、相棒だとか言わなかったか?」
「ええ、言いましたよ。アタシは悪を倒す正義のヒーロー。ぶっちゃけ、もう相棒なんて要らないと思うんですけどね、なんか上が君と一緒に戦えって。っていうことで、君には私と一緒に正義のヒーローになってもらいます」
なんか、面倒くさそうな奴に命を拾われてしまった。しかも、向こうも面倒くさそうにしている。最悪だ。生きる意味を探すという言葉は何だったのか、一瞬でも気を許してしまいそうになった自分に恥じる。
「正義のヒーローかなんか知りませんけど、俺はこの後(魔法少女インビジブルフレイヤちゃんの美少女フィギュア)を受け取りに家にいないといけないので麻酔解けたら帰らせてもらいますね」
「無理だよ。君が家で倒れてからはもう2年以上経ってる。今頃は君の家は家主が行方不明になった不吉な家として取り壊されているんじゃないかなあ。
それに、拒否権はないよ。だって、その心臓は君にしか扱えないから。もし、拒否するなら、次の継承者が出てくるまで心臓を保存するために今からあなたの胸から力ずくで引きずり出さないといけないわ。あなたなんて所詮入れ物なんだから、またあなたが死んでもアタシには関係ないわ」
この世で、こんな醜い脅し文句があっていいものか。俺の美少女フィギュアと二年間は突然に奪われた(二年間は割とどうでもいい)。さらに生き返らせたばかりなのに、次は自らの手で殺すと来たかとんだ闇組織じゃねーか。何が正義だ、理不尽過ぎるだろ。いくら死にたかったとはいえ、心臓をえぐられるのはごめんだ。どうやら、俺はこの少女の相棒になるしか道は残されていないようだ。それでもー
「やんねーよ。俺には悪を倒す力もない。そもそも、悪ってな何だ?」
「悪はね、アタシたちの敵だよ。今、この世界の平和を壊そうとする奴ら、ただ幸福が築かれるはずだった家庭を壊してしまうような奴ら、自分たちの世界しか考えていないような奴ら、そういう世界に必要ない力の使い方を間違えた可哀そうな人たちだよ」
そう語る少女の表情は悲哀のこもった大人びたものだった。
少女は切り替える。
「例えば国の国家秘密を盗むスパイだったり、戦争を起こそうとする困った武器商人だったり、果ては未来から来た過去を改変するための使者だったり、敵はたくさんいるの。倒しても倒しても懲りないやつもいるわ。そしてそいつらと、日々裏社会でバチバチやっているのがアタシたち《CRISIS CRUSHER》よ。
そんな組織に誘われたのに、あなたは力がないって言ったわね。
確かに、あなたはなんの力もない役にも経たない一般人よ。でもね、その心臓が力を貸してくれるわ。あなたが持っていたのはその心臓への適合力、それだけよ。だから、力を使いこなせば、銃を構えてくる敵なんかも、一瞬で倒せるわ。
だから、心配せずにアタシの背中を守りなさい。
そうしてくれたら、アタシもあなたを全力で守ってみせるわ」
世界か、戦争だのスパイだの思った以上にスケールのでかい話だな。元々、逃げ場の無い話は相当厄介だったらしい。何で、銃とか危険なもの持った奴らと戦わないといけないんだ。俺の心臓に宿る力ってのも胡散臭い。
「勝負しようぜ、俺に敵を倒す力があるならお前とも勝負になるんだろう?
そこで、俺が負けたら相棒になってやる。勝ったときはどうしようか、この心臓はお前らにとってすごく大事なものらしいし、俺の要求を吞んだ上で、お前が恥ずかしーい恰好で懇願してくれたら考えないでもないかな?」
俺の中での下衆な部分が垣間見えてしまった。
けれど、これまでの本当かどうか疑わしい話を確かめるには丁度いい。決して、あわよくばとか考えたわけじゃない。うん、違う・・・。
「言ったわね、初対面の女性にそんな邪な考えをするなんて、相棒になる前から嫌悪感を隠せないのだけど、いいわ。
あなたに『ごめんなさーい。僕はあなたの奴隷ですー』って言わせるまで嬲ってあげるわ。覚悟なさい。
どうせ、麻酔は今日の夕方には切れるだろうから明日の朝10時にこの建物の地下2階にあるトレーニングルームまで来なさい。そこで、主従をはっきりさせてあげる」
「最後に一つ聞いていいか?」
「何よ?」
「お前、何歳なんだ?」
先ほどまで交渉していた少女は学校になんていたらおそらく全校生徒の注目の的だろう。それくらいに琥珀色の大きな瞳、話すときの無垢な笑顔は美しかった。まさに、《偶像》という言葉が似あう美少女だった。しかし、話の内容・話し方にしては容姿が幼すぎだ。せいぜい、中学生位か。世界を救うのに年齢は関係ないかもしれないが多少は気になる。
だって、現在進行形で初対面の非合法少女にベッドの上で跨られているんだから!
「21よ。なんか文句ある?」
「―えっ―」
俺は今日一番の衝撃を受けた。新しい心臓を得て生き返ったことよりも、正義を語る謎組織に入れられそうになっていることよりも。目の前の少女《奏》が成人済みだったことに。
こうして、翌朝俺たちは勝負と相まみえた。
読了感謝です。
この話で今日投稿する作品は最後です。
相も変わらない文章力ですが、二人の主人公とともに成長することでしょう(皮算用)
近々、4話も投稿するのでよろしくお願いします1