裏切り-6
あの後私が着替えようとしていると、姉が後から衣裳部屋に入ってきて私に寄り添ってくれた。『泣いていいから。』そう言われたけれど泣かなかった、というより泣けなかった。泣くという感情がわかなかった。あぁ、結局そうなったかという納得したような気持ちだったのかも知れない。
その後色葉さんが抱っこ紐の向葵ちゃんを抱えた状態で入ってきたので、『これから早急に物件探して引っ越ししないといけないけど、それまで色葉さんのところでお世話になりたい。』と伝えると、『それは構わないけれど少し待ってね。』そう言って何処かに電話をし始めた。そしてしばらくして色葉さんが、『一華ちゃん、母方の叔父が不動産のオーナーでね、家の近くで空いてる物件あるらしくて、写真送ってもらうように言ってるから、ちょっと待っててね。』それで私はそれを待っている間に私服に着替えた。
帰りに物件を見せてもらえることになったので、そのことについては色葉さんにお願いしておいて、私は控室に戻らないといけないので、衣装部屋のスタッフの方に挨拶をして部屋を出た。するとそこには後から色葉さんのお父様に連れてこられたのだろう律子と哲志がそこにいた。
『一華、ごめん。俺昨日酔っていて覚えてなくて、朝気付いたら律子が横にいたんだ。俺は、一華と結婚したいんだ。俺にチャンスをくれないか。』そう必至に言ってきた。
『一華ごめんね。哲志くん許してあげてね。律子のことも許してくれるよね。』律子の方はへらへらしていた。私は彼らの言動に虫唾が走り、話すのも嫌だった。けれどはっきりと言わなければわからないんだなぁと冷めた目で見ながら、はっきりとこう告げた。
『哲志、婚約は破棄します。式場代は哲志が原因だからあなたが全額負担になるし、慰謝料も請求させてもらうから。それと、律子にも慰謝料請求するから。覚悟してね。』そう言うと、私の物言いに驚いていたけれど、その後弁護士である兄が対応してくれたので、彼らが何を言おうと私は相手にしなかった。
彼の両親も『一度の過ちで…。』と言っていたが、『一度ではないので。』私がそう言うと、驚いた顔をして、哲志を睨みつけていた。
話は改めて後日にということになり、私はスタッフの方にご迷惑をかけたお詫びをした後、色葉さんのお父様へもお礼を言った。その後は色葉さんの車に乗せてもらい、向葵ちゃんと姉も一緒に物件を見に行った。灯真くんや、姉一家は兄の車で帰ってくるようだ。
私達は兄の家の近くにあるマンションに到着し、そのエントランス前で色葉さんの叔父さんが待っていてくれた。
『こんにちは、今日は大変だったね。事情は聞かせてもらった。まぁ、ここのマンションはセキュリティがしっかりしてるからいいんじゃないかと思う。』
『ありがとうございます。色葉さんにいつもお世話になりっぱなしで。あっ、こちらは姉です。』
『こんにちは、この度は急なお願いにご対応頂きありがとうございます。』
『まぁ、そんな堅苦しい挨拶はいいから、部屋見に行こう。』
そう言ってエレベーターに乗り、部屋に案内された。
部屋は305号室で、鍵を開けると右手に靴箱、廊下に風呂トイレ別にあって、洗濯機置き場も廊下にあった。
奥の扉を開けると左手にキッチンがあり、リビングダイニングがあり、ベランダがある。キッチンの反対側には引き戸があり、そこに一部屋あった。
『どうかなぁ。』
『お姉ちゃん、どう思う?』
『いいところなんじゃない?』
『ここに決めます。』
『よかったらなんだけど、ここもう清掃済んでるから直ぐ住めるけど、直ぐ引っ越すかい?』そう言われて私は目を丸くしていると、『一華ちゃん、叔父さんね既に手配してくれてるみたいなの。』私はどうしようかと思ったけれど、姉が男手が今なら沢山あるから引っ越してしまいなさいって言われたので、急遽兄に連絡をして出る準備をしてもらい、叔父さんに住所を伝えてトラックを手配後、色葉さんの車で兄夫婦の家に戻り、兄の車で兄、姉夫婦、姉の上の子と五人で私達の家に向かった。
住んでたマンションの前には、既にトラックが到着していて、私達が到着するとみんなで部屋に入り、持ちだすものをピックアップして、大きいもので私が購入したものは先に運び出してもらい、細かいものは姉と私で箱詰めし、できたものから兄達が運びだしてくれていた。
一時間と少しした頃に全てが終わり、部屋に鍵をかけて出る頃になって、哲志がやっと家に戻ってきたようだった。
『一華、ごめん。あの……。』そう言いかけたところ、兄が『哲志くん、話し合いは後日するからね。』そう言ってくれて、私は部屋を後にした。鍵は話し合いの時に渡せばいいと兄に言われていたので、それまでもってることにした。
その後新しいマンションに行き荷物を運び込み、まだお昼がまだだったので、スーパーでお昼を買ってきて休憩をした後、荷物を解いていった。
その日のうちに荷物も収まり、後は必要な家電類を買い揃えるだけだったのだけれどそれは明日買いに行くことにして、まだ電気もガスも通ってないので今日はまだ兄のところに泊まることになり、また皆んなで車に乗り込み兄の家に行った。
兄の家に入ると、子供達は元気に騒いでいたので、いつも通りで安心した。灯真くんは私の顔を見ると近づいてきて、『一華ちゃん、僕ね、一華ちゃんのこと大好きだよ。』そう言って私を抱きしめるようにしてくれた。小さいながらも気を遣ってくれる灯真くんに胸が熱くなり、『灯真くん、ありがとう。灯真くんにそんなこと言われたら嬉しいよ。涙でそうやわ。』そして私は涙ぐんでいた。周りはその姿を温かく見守っていてくれたけれど、向葵ちゃんがその時に泣き出したので、またいつも通りになっていた。
色葉さんと姉とで夕食の準備をしていて、私はゆっくり体を休めるように言われたので、灯真くんの部屋に行き、一人ぼうっとしていた。
昨日兄が出て行ったのは、色葉さんのお父さんが哲志を居酒屋で見かけ、その時点で少し一人でお酒を嗜んでいる様子だったけれど、後から男女二人が来て同席したのはいいが、やけに女性の方が哲志にべったりだったのが観察していると、それが以前問題を起こしたことがある女性だったと。それでしばらくして店を出たので気になって後を追うことにしたらしい。
色葉さんのお父さんは車できていたのでお酒は控えていたようで、一緒に来ていた人はその様子に気づき、対応してくれ、お父さんともう一人が車に乗り込んで観察してると、三人でタクシーに乗りこんだのでその後を追うと、あるマンションの一室に三人で入っていったのでその時に兄に電話をくれたようだ。
兄は連絡を受けてその場所に車で行き、お父さんと合流した。お父さんの職場で対応してくれた二人は事務所に一旦戻り、お父さんの指示を待ってくれたようだった。残りのお二人はお酒を飲んでいたので、この場にはいない。
兄が色葉さんのお父さんと合流してしばらくすると、男性が帰って行ったようで、そこから哲志がでてくることがなく、朝までそこにいたらしい。色葉さんのお父さんの事務所の方にご協力頂き、朝八時を過ぎても出てこないので、マンションに突撃し発覚した。
また色葉さんのお父さんは、律子が以前にも問題を起こしたことがあり彼女の実家も知っていたので、事務所の方が事前に朝一でご両親にお話をしに行き、律子の母親を同席させて鍵をあけてもらったらしく、中に皆んなで入ると、ベッドに男女が横になっていたということだ。
兄が哲志を起こすと、自身の状況にパニックになっていたようだけれど、兄が言い訳できない状況なので、今日の式の中止を言い渡し、色葉さんのお父さんにその場をお願いし、兄は一足先にそこを後にし、哲志と律子は後から色葉さんのお父さんの車で式場に向かい、お父さんの事務所の方は律子のお母さんが立っていられない状況なので、一旦その場から出てご自宅に送り届けたようだった。
あれから私の携帯には哲志からのLINEが入っているようで、通知音がうるさかったけれど、見たくもないので携帯の電源を落としていた。
哲志はどう思って居酒屋に行ったんだろう。今までからもお酒で失敗ばかりしていたのに。しかも結婚式の前日にお酒を飲むなんて、もし私が哲志の立場ならば、そんな時はお酒を控えるし、さっさと帰って翌日の為に体を休めるだろう。けれど哲志はそれをしなかった。油断もあるけれど、結局は自身に甘いのだろう。
結婚式の翌日は姉夫婦と近くの大型電器店へ見に行き、冷蔵庫、洗濯機、テレビを購入した。姉夫婦が買ってくれると言ったけれどそれは断った。いつまでも姉夫婦に甘えているわけにもいかないし、折角日本に来てもらったのにこんな事になってしまって、余計な出費はさせたくないってのもあった。だから断ったんだけれど、私が知らない間に忘れていた掃除機が追加されていて、これくらいはいいからと言ってくれて、結局甘えてしまった。
家電製品の配達は明日になるということだったので、明日まで休みをとっていて家にいることができるので、今日中にその他に必要なカーテンや寝具、お風呂やトイレ用品等を購入したり、水道光熱関連の手続きを終わらせることにした。
そう言えば携帯を見ると哲志の他に、会社の同期からもLINEが来ていた。結婚おめでとうのLINEだ。それで明後日から会社に出社するので、その前に伝えておかないとと思い、同期三人にLINEした。
『結婚式中止になった。婚約も破断。哲志を前日に他の女が寝とった。私は結構スッキリしてる。家も引っ越した。』すると驚いたようですぐに返事がきた。『まじか、明後日帰り飲みに行こう。話聞くから。』そんな感じのメールが三人から届いていた。それで『了解。』と返事をしておいた。そのLINEの後、会社に行って住所変更等の手続きをしなければならないなぁとぼんやり考えていた。
哲志からのLINEは百件近くになっていたけど、開けることはしなかった。今更言い訳を聞いたところで、気持ちは揺らぐ事はないし、ただ耳障りになるだけだからだ。ただこんなに送って暇な奴だなぁとは思ったのだけれどそれが浮かんだ時、私って本当に気持ち冷めてしまったんだなぁと実感した。
兄の家に戻ると、姉一家が旅行どうするかと話をしていた。私のことが心配で側にいた方がいいのではと話が出たようだったけど、私はそれを聞いて気にせず日本を楽しんでと伝えた。
折角の休みなのに、子供達に楽しい思い出を作ってあげたいし、予約も入れてるだろうし勿体ないしね。
それに兄や色葉さんがいてくれるから何か困ったら頼ることもできるからっていうのもある。だからそういう事も含めて伝えると、わかったと言って納得してくれた。
子供達は行けないのかなぁと複雑な心境だったのだろうけど、行けるとわかると顔から笑みが溢れていた。その笑顔を見て気を遣わせてしまってるなぁと、申し訳ない気持ちになってしまった。
その日は皆んなでお寿司を食べようということになり、宅配のお寿司を注文することになった。
姉の子供達も日本に来たらお寿司を食べたいと言っていたようで、沢山のお寿司が食卓に並んだ時、とても喜んでいた。
サーモンやマグロ、他にも色んな魚の乗ったにぎり寿司にも挑戦していて、これは苦手これは好き等見ていて微笑ましかった。
灯真くんも従兄と同じように食べようとして口いっぱいにほうばっていたので、色葉さんがよく噛みなさいって注意していた。
翌日の朝、姉一家は旅行に出かけるので、私も同じように起きてきた。
『おはよう一華ちゃん。』そうMartinaちゃんが声をかけてくれた。
『うん、あっそうだ。これあげるね。旅行先のホテルについたら皆んなの前で開けてね。だから大事に鞄にしまっておいで。』そう言って餞別を渡すと、鞄にしまいに行っていた。
しばらくするとAlfさんが起きてきて、私にこう言った。
『一華、僕らは離れていても家族だから、いつでも頼ってね。よかったらクリスマスこっちにこないか?』
『ありがとう、けど年末近くだから休めないなぁ。でも二月頃約束してたし、一度行ってみたいと思ってる。その時にお世話になってもいい?』
『もちろんだよ。おいで。』そう言って私をハグしてくれた。姉はその光景を温かく見守ってくれていたようだった。
私は姉一家を駅まで見送った後、荷物が来るのでスーパーで掃除用の洗剤や、簡単に食べれる昼食用のパン等を購入してからマンションに移動した。
家電製品の搬入が十一時頃と連絡が来たので、それまで新居の掃除をしたり、カーテンを取り付けたりしていた。
家電製品の搬入が始まる頃に、ガス屋さんが来てガスを繋げてくれ、全てのものが揃ったので今日からでも生活できる準備が整った。
その後一旦兄の家に行き、色葉さんに準備整ったので新居で生活する旨を伝えると、『これからは家も近いし直ぐに行ける距離だから、いつでも頼ってね。』そう言ってくれた。そして私はお礼を言って荷物を持って新居に戻って行った。
冷蔵庫に何も入っていないので、また私はスーパーに行き数日分の食材を購入した。鍋などの調理器具は自身が拘って買ったものだったので、引っ越しの際に持ってきていた。だから直ぐにでも料理をすることができたのだった。
新居でお風呂に入りお湯に浸かってぼうっとしていると、知らない間に涙が溢れていた。やっと泣けた、そんな風に思いながらただただ流れる涙をそのままにした。
どれくらいそうしていただろう、そろそろあがろうかとした時に気持ちもスッキリしていた。
その後お風呂から上がり身支度を整えて、明日の仕事の準備をしてから布団に入って何も考えず眠りについた。
今朝は目覚ましが鳴ってから目が覚めた。少しぼうっとしてたが、いつもと違う光景にあぁこれが現実なんだなぁと実感したのだった。
職場に行くと、同期の三人が心配してやってきた。
『二ノ宮、今日来るって言ってたけど大丈夫なの?』
『休めばよかったのに。』
『二ノ宮、肩貸してやろうか?』宮本、佐野、山田が次々に声をかけてくれた。
『うん、心配かけてごめん。何かね、今スッキリしてる。結局こうなったかってね。未練もなし。』そう言いながらここ何日かのことを少し話をした。
しばらくして仕事がいつも通り始まったのだが、総務に結婚が無くなったのでお祝い金の辞退と、引っ越しをしたのでその手続きをしなければならなかったので、総務部に向かった。
結婚が無くなったことを話すと、総務の方も何と言っていいのかわからないといった表情を浮かべていたので、こちらもあまり話をしたくはないので、淡々と手続きを終えた後は自身の部署に戻り、通常通りの業務に取り組んだ。
仕事が終わり同期と会社の入口で待合せて、駅の近くの個室がある居酒屋に行った。店内はそれぞれが個室ということもあってか、かすかに声が聞こえる程度であまり他の部屋の様子は伺いしれなかったが、ただ人は入っているようだった。まぁ私達もその方がよかったのだけど、この店を選んだ山田には驚いた。
『よくこの店知ってたねぇ。』
『いいだろ、ここ。たまに来るんだ。』
『えっ?誰と?』
『恋人。』
『えっ?いたの?』
『まぁね。まぁ、僕の話はおいといて…。注文しようぜ。』そう言って、メニュー表を見ながら何を食べようかと話をしていた。それで、取り敢えず酒のつまみになりそうなもの、枝豆や軟骨の唐揚げ、卵焼きにごぼうサラダと、ビールを4つ注文をした。
ビールがしばらくして運ばれてきたので、それを飲みながら朝言ったことをまた繰り返し話すことにはなったのだけど、まだあの後話し合いをまだ持てていないこともあって、それ以上話すこともなかった。ただもう私の気持ちは冷め切っているので、元には戻れないことは確実で、それは3人には伝えておいた。
しばらくして注文した酒のつまみが次々と運ばれてきたのでそれを口にしながらビールを飲んでいた。
『まぁ自分に甘い人間って、どこか損するもんだなぁ。』そう山田が言うと、『はぁ?どういうこと?』そう佐野が反応した。
『二ノ宮の彼ってさぁ、酒癖悪いのわかってて酒のんでその甘さがさぁ結局色んなもの失ったわけやろ?』確かにそうだ。哲志の考えの甘さが招いたことだった。何度も彼らには哲志の行動について愚痴を言っていたから、そういう風に言ったのだろう。
『あぁ、そういうことね。二ノ宮を失っただけじゃなく、人からの信用もなくなっただろうね。』そう佐野は返していた。
『二ノ宮、全て終わったら、一度ゆっくり休みな。』
『うん。ありがとう。実は二月に予定通り姉のところに行こうと思っていて、それまでに色々終わらせようとは思ってる。兄が殆どやってくれると思うからまぁ大丈夫でしょ。』
『そっか、二ノ宮の兄さん弁護士だもんね。』
『うん、けど企業専門なとこあるから、兄嫁のお父さんも協力してくれるみたい。』
『それは心強いねぇ。』そう言いながら、私の気持ちを慮ってくれる同期達を有難いと思っていたが、彼らには涙を見せない私は異質に写ったかも知れない。
居酒屋にどれくらいいただろうか、時間も時間なのでそれぞれ帰路に着いた。
私は電車に乗り最寄り駅で降りずにいつもの癖で乗り換えしそうになり、思い出したとばかりに足を改札に向けて進めた。
駅からそう遠くないマンションで助かったと思いながら、新しい自宅に帰りついた。お酒を飲んだので水を沢山飲み、酔いを覚ましてからお風呂に入った。
今日は念入りにお肌のケアをしなければならないので、お風呂から上がってからも、化粧水たっぷりのパックを顔に乗せたり、美容液をつけたりをして、あっという間に時間は十二時を指していた。それから私は風呂上がりに水分をとったあと、やっと布団に潜り込み眠りについたのだった。
翌日は少し顔が浮腫んでいたが、気分的にはスッキリしていた。まぁ翌日の為に水分とっててよかったなぁと思いながら、身支度をして仕事に向かった。
職場で仕事前に携帯を見ると、姉から明日の昼のフライトでスウェーデンに帰るとメッセージが入っていたので、今日の晩に兄の家に寄ると返事を返しておいた。それと色葉さんにも仕事帰りに寄らせてもらうとLINEして、コーヒーを飲んでから業務を開始した。
あの結婚式の一件以降も哲志からの連絡は未だにあるけれども、こちらは電話は着信拒否にしているのでLINEでの連絡やメッセージできている。けれど私は一切見ていない。興味を無くしたと言った感じだろうか、また着てるなぁと携帯を触った時に気づくぐらい、哲志のことはどうでもよくなっていたのだ。
兄にこの件はお願いしているので、今日兄の家に行けば何か聞けるかもしれないが、その前に姉達が帰るので顔を見せて大丈夫なところを見せなければならないと思っている。
仕事は集中してできていた。何もなかったように、周りの人とも普通に接していたつもりだった。ただ時折話しをする時に顔が怖くなっているらしく、同期には紺を積めるなと言われていた。『それで今日また帰り行く?』そう宮本が言ってくれたけど、『今日は予定はいってるから。』そう言って断った。
仕事を終えて駅に向かう前に、手土産を駅前で購入した。それから一旦家に帰ってから、予め準備していた渡す予定のプレゼントを手にし、兄の家に向かった。
兄の家に到着すると、灯真くんとSamuelくんが手を繋いで玄関に現れた。中がいいなぁと思いながらまず手土産をSamuelくんに預けて、手洗いうがいをする為に洗面所に向かった。これはいつもそうなのでもう慣れてしまっている。その後リビングに向かうと、皆がそこで寛いでいた。
『一華、お帰り。後、子供達に餞別ありがとうね。びっくりしたよ。ホテルの部屋着いたらMartinaが一華に貰ったって出してきたから。』
『あぁ、折角日本に帰ってきたのに楽しんでほしいから。お姉ちゃん達には色々引っ越しとかでもお世話になったし。あぁ、あと大きい袋それぞれ名前書いてるからプレゼント。小さい方は色葉さんにいつもの。』すると色葉さんは手土産を受け取ってくれ、また後で出すわねと言っていた。
姉も、『えぇのに。ありがとう。』その言葉を合図に子供達からもお礼を言われた。
灯真くんは僕にはないなかぁと寂しそうな顔をしていたけれど、Martinaちゃんが、『あっ、これ灯真くんと向葵ちゃんのだ。』そう言って手渡してくれた。灯真くんもお兄ちゃん達と同じようにあるのが嬉しかったようで、『一華ちゃん、ありがとう。』そう言ってくれた。
そんな中、色葉さんに明日のお見送りのことを聞いてみると、色葉さんは向葵ちゃんがまだ小さいので自宅で見送るとのことで、私が色葉さんの車をお借りして送ることになった。私が乗っていた車は、元々哲志の車だったので私は車を持っていなかった。
明日の事を確認した後、兄から『一華、月曜日の夕方時間空いてるか?』そう言ってきた。
『うん、仕事帰りにお兄ちゃんとこ行けばいい?』
『うん。それで一緒に色葉の親父さんの事務所に行くことになってる。ちょっとな、あの子かなりまずいな。親が大変そうだよ。』
『あぁ、何となくわかる。それで哲志も来るの?』
『いや、月曜日はこない。一華との確認だから。その後だな。』
『わかった。費用ってどうしたらいい?』
『ああ、それはまた聞いとくわ。』
『うん。わかった。』
そしてその後は、揃った家族で日本での最後の夜を楽しんでいた。