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あまやま~甘い言葉を一日一回摂取しなければ死んでしまう病に侵されたらしい高校生ふたりの話~【短編版】

作者: だぶんぐる

ボイコネライブ大賞用に書いてみた『音声特化ならこういうのが聴いてみたい!』と言う作品です。

本当は連載にしたかったのですが、間に合う保証がないので一旦短編で。



いちご:わ、わたし! 一日一回甘い言葉を摂取しないと死んじゃう病気なの!



 目の前の美少女、吹井田(ふくいだ)いちごは、そう言った。



翔斗:え? なんだって?



 主人公のような顔面偏差値には全く届かないモブ雑魚DK、池木翔斗(いけき しょうと)は本気で聞き返した。


 だって、目の前にいるのは、吹井田いちごさん。

我が校のアイドル的存在。

 『いちご』の名の通り、ストロベリーブロンドのボブという美人専用ヘアスタイルみたいなつよつよの装備を身につけても違和感ない顔面偏差値トップクラス。

 ちょっと天然入ってるけど、あまりの可愛さに『私、天然ぶってる子嫌い~』という女子も黙るしかないほどのぽわかわいい性格。

 そして、そんなぽわぽわの性格に負けない程ぽわぽわ柔らかそうでそれでいて余計な所はぽにゃぽにゃしてない驚異のスタイル。

 そして、その天然なぽわぽわ雰囲気がそのまま飛び出したような優しいかわいい声。


 そんな完璧すぎるつよつよ女子が、クソ雑魚モブ男子の僕にこう言ってきたのだから聞き返すのも当たり前だろう。




いちご(回想):わ、わたし! 一日一回甘い言葉を摂取しないと死んじゃう病気なの!



 かわいい。感想はこれだけ。これ以上の感想があるだろうか。いや、ない(反語)


 しかし、何故こんな事を言われたのか、それは遡る事十数分前。



*********



兜:おい! 池木! お前女子からキャーキャー言われて調子こいてんじゃねえぞ。クソ雑魚モブがよ!



 クラス一プライド高くてめんどくさそうな兜が僕に向かってそんな事を言ってきた。

 膝蹴りのおまけつきだ。


 キャーキャー言われてるといっても別に僕はイケメンじゃない。

 ただ、声が良くて、よく二枚目アニメキャラの物真似をして女子にキャーキャー言われているだけだ。

 それが癇に障るらしい。

 何も言わなければ去って行くだろうという予想通り、兜はそのまま去って行く。



兜:声で女子騙してんじゃねえよ、クソ雑魚モブが!



 毒を吐きながら。

 今までは平和に暮らしていた。だけど、二年になって兜と同じクラスになったのが運の尽きだった。


 僕は、ようやく解放された安堵感と、明日からもっと大人しくしなければという不安とでのろりと亀のような足取りで鞄を置いていた教室へと戻った。

 放課後、教室には誰も居なかった。

 いや、一人。机に突っ伏しているストロベリーブロンドが見えた。



いちご:すぅ……すぅ……。



 吹井田さんが、教室で寝てた。

 吹井田さんは多分部活終わる友達を待ちながら勉強をしていたのかノートが枕になっている。


 ただ、教室とはいえ、寝てるのは不用心だ。

 ただでさえ、モテる吹井田さんだ。あの兜だって狙っているらしい。

 あわよくばキスでもと考える男子がいたらどうする? あの兜とか。


 僕? 僕は身の程を弁えたクソ雑魚モブ雑魚男子だ。大丈夫、しない。


 僕に出来ることは、吹井田さんの幸せを願いながら、起こしてあげるだけだ。



翔斗:あの、吹井田さん? 吹井田さん?


いちご:んにゃ~? 池木くん~?


翔斗:そう、同じクラスの池木です。あの、起きた方がいいんじゃない?



 寝顔が死ぬほどかわいい。見ながら、ごはん三倍はいける。

 だが、僕はクソ雑魚モブ雑魚オブクソ雑魚モブ雑魚男子、そんなことをする勇気もごはんもない。

 ただ、モブの役割を果たし起こすだけだ。


翔斗:起きて、吹井田さん。


いちご:んにゅは~、じゃあ~、大好きって言ってくれたら起きる~。



 何を言っているんだ?

 夢の中で僕とイケメンが隣り合ってるのだろうか。

 イケメンが吹井田さんに大好きって言うのを僕は間近で見させられているのか?

 かわいそう! 夢の中の僕!


 と、僕がうめき声をあげていると、急にパチッと吹井田さんの目が開く。



いちご:あ、あ、あ……池木くん?


翔斗:お、はようございます。吹井田さん。


いちご:んぎゃあああああ! ち、違う! 違うの! あのね、あのね、


翔斗:いや、大丈夫! 僕は大丈夫だから!



 理解している勘違いはしていないと必死に伝えようとしているんだけど、吹井田さんは聞こえていないようで必死に何かを誤魔化そうとバタバタしてる。かわいい。



いちご:違うの! その、わたし!



 さあ、ここで戻ってきます。



**********



いちご:わ、わたし! 一日一回甘い言葉を摂取しないと死んじゃう病気なの!



 目の前の美少女、吹井田(ふくいだ)いちごは、そう言った。



翔斗:え? なんだって?



 そして、クソ雑魚モブオブザイヤー受賞、池木翔斗は聞き返した。

 目の前の吹井田さんは、動揺しながらも必死に説明してくれた。



いちご:あの、これ、まだ、未知の病でして、死んじゃうんだよ! で、その、毎日、言ってもらってるの。弟に。死んじゃうから。そう! でも! でもね! こういうのって、その、効果が、効果が薄くなるの! 特に家族からだと。だから、家族以外の人に言ってもらおうと思って、で! 池木くん、どう!? 死んじゃうの! 私!


翔斗:えーと、つまり、僕が吹井田さんの指定する甘い台詞を言えばいいってこと?


いちご:百点満点! じゃあ、



 そう言って吹井田さんは、漫画を鞄から取り出しページを探し始める。まだいいとは言ってないけど。まあ、いいけど。


 病の為なら仕方ないし、僕を選んだ理由も分かる。

 僕は、クソ雑魚モブチャンピオンだ。まさか、僕がかわいいチャンピオンの吹井田さんに好意を持つことはないだろうという格差による安心感だろう。


 そして、もう一つ。僕の声。

 何度でも言うが僕の唯一の自慢。僕はめちゃくちゃ声が良い。自分で言うかって声が聞こえる気がするが、自分で言う。あと、声真似がうまい。

 アニメキャラの声真似で、うまいことクラスでそれなりの地位を築いていた、んだけどなあ。

 まあ、とにかく、声は良い。


 絶対に勘違いしない上に声が良い人間であれば、その『一日一回甘い言葉を摂取しないと死んでしまう病気』には都合がいいだろう。


 そんな病にかかっている吹井田さんが目をキラキラさせて漫画のページを見せてくる。



いちご:これ! これでお願いします!



 僕はその台詞を見て絶句する。だが、



いちご:だめ?


翔斗:駄目じゃないです。



 カーストトップ女子の願いを拒否するクソ雑魚モブグランドチャンピオンなど生意気すぎる。

 僕は、遠くで聞こえる部活の声を聞きながら、大きく息を吸い込み、ストロベリーブロンドの彼女を見て口を開く。



翔斗:死ぬまで、いや、死んでも君を愛し続けることを誓うよ。



 そう言うと、吹井田さんはぶるりと震え、息を荒くしながら、少し潤んだ瞳で僕を見て言った。



いちご:あ、ありがとう。池木くん……!


翔斗:どう? 今ので足りた?


いちご:え?


翔斗:いや、だって、病気……。


いちご:あ、あー! うんうん! そうだね! 足りた、かも! けど、これ、毎日摂取しないと死んじゃうから、あの、明日も、お願い、しても、いい?


翔斗:分かった。いいよ。



 クソ雑魚モブ永世名人に拒否権などない。兜? 知らない。吹井田さんの方がつよい。

 こんなキラキラした瞳の吹井田さんに勝てる者がいるだろうか。いや、いまい(反語)



いちご:ほんと!?



 ただ。



翔斗:でも、僕からも一個いい?


いちご:え? うん。なにかな?



 僕にもリターンをお願いする権利はあるよね。

 僕だって報われていいはずだ。

 さっきの兜の一件が僕の心をかき乱したせいか多少自棄になっていたのかもしれない。



翔斗:実は……僕も、同じ病気なんだ。


いちご:え?


翔斗:『甘い言葉を一日一回摂取しなければ死んでしまう病』。


いちご:え? えー!?


翔斗:どうしたの?


いちご:え、あ、いや……びっくりして、その、ほんとに、


翔斗:ほんとに?



 吹井田さんが繰り返す言葉にひっかかり聞き直すと、吹井田さんは、あ、やべ! みたいな顔を一瞬見せ、目を彷徨わせながら聞いてくる。



いちご:ほんとに……本当にぃ? 池木君も『甘い言葉を一日一回摂取しなければ死んでしまう病』なの?


翔斗:そうなんだ。


いちご:そうなんだ……。


翔斗:で、なんだけど……僕も吹井田さんと似たような状況でして、なので……


いちご:え!? ええー! いやいや、無理無理!



 吹井田さんは僕の言いたいことに気付き、顔を真っ赤にして嫌がる。



翔斗:でも、この病の恐ろしさは吹井田さんが一番よく分かっているはずでしょう。


いちご:ああ……う~、そう、だけどぉ。


翔斗:お願い!



 駄目で元々一か八かで押してみた。



いちご:……わ、かった。じゃあ、なんて言えば?


翔斗:ほんと!? じゃあ、さっき僕が言ったのを女子バージョンで。


いちご:むりむりむり!


翔斗:お願い! 人助け、人命救助のためだから!


いちご:うー、うー、うー。



 吹井田さんがしゃがみこんで唸り続けている。

 まあ、流石に無理があったか。身の程を弁えているから大丈夫だ。



翔斗:い、いや、そこまで悩まれたら、駄目なら……


いちご:……! 言う! 言うよ! だ、だって、わたしが言わないとほかの誰かが池木君に言わないといけないんでしょ? 私と一緒ってことは、家族の誰かじゃなくて、他の誰かが……



 言わないとってひどくない?



翔斗:ま、まあ、そうかな。


いちご:じゃあ、言うよ。言う、よ。言うよ?


翔斗:う、うん……。


いちご:言うよ?


翔斗:うん。


いちご:言うよ?


翔斗:……うん。


いちご:言うよ?


翔斗:いや、駄目なら。


いちご:言うからぁあ! 私が! 言うから! あの、先に言っておきますが、これは飽くまで治療行為であり、これを告白とカウントしないでください。


翔斗:も、もちろん! これで好きになったりしない! 誓う!


いちご:……!



 ぽかりと殴られた。なぜ?



いちご:じゃあ、本当に好きになったりしないか試してやる。



 吹井田さんは急に鼻息荒くして、声の調整を始めた。



翔斗:お、お手柔らかに。



 吹井田さんが大きく深呼吸すると、それに呼応するかのように教室に風が吹き込み、カーテンが揺れ、そして、彼女のストロベリーブロンドと瞳が揺れ、



いちご:……私、吹井田いちごは、死ぬまで、いや、死んでも君を、池木翔斗君を愛し続けることを誓います。



 甘い匂いと一緒に近づいた彼女の唇がそう言うと、ぶるぶると震え始め、教室のカーテンに飛び込み、ぐるぐるとクレープみたいに包まれた。いちごクレープだ。



翔斗:あの、吹井田さん?


いちご:どう!? 摂取できた! 十分!?(こもり声)



いちごクレープの中からいちごさんの声がする。



翔斗:え? ああ、うん。十分……すぎるくらい。ありがとう。



 さて、今更だが。僕、池木翔斗は、そんな病ではない。


 そして、そんな病なんてないだろうと勿論知っている。


 ならば、何故こんなことを言ったのか? それは、


 吹井田いちごさんが好きだからだ!


 合法的に(?)吹井田さんの甘い言葉が聞けるチャンスと飛びついた。


 勿論、吹井田さんは僕の声だけが、僕の唯一誇れる声で漫画のキャラの台詞を言ってもらうだけが目当てだろう。


 それで構わない。それをすれば吹井田さんの生あまボイスが聴けるのだ。

 どうせモテない、陽キャ陰キャにも属せない半端高校生だ。

 せめて、こういう気分だけでも味わいたいじゃないか!


 しかし、さっきのは最高でした! 挑発に乗った吹井田さんがまさかの名前入りボイスで言ってくれた! うひょおおおおおおおい!

 大丈夫です! 吹井田さん! 身の程を弁えてる男、池木翔斗。

 決して勘違いなんてしませんから!


 そんな自覚非モテ男が心で大騒ぎしている間に、何とか落ち着いたらしい吹井田さんが、いちごクレープの中から出てきた。かわいい。



いちご:あの~……さっきの私が言ったので池木君は、十分って言ったじゃない?


翔斗:え? ああ、うん。


いちご:よく考えたら私、十分じゃないかも。


翔斗:は?


いちご:私も、名前入れて言ってもらえないとちょっと甘さが足りない気がする。


翔斗:と、言う事は?


いちご:もうワンテイク甘い台詞下さい。


翔斗:いやぁああああああ!



 クソ雑魚モブ神である僕の絶叫が教室に響き渡った(美声)。



 こうして僕の声で甘い言葉を言って欲しくて病にかかった(振りをする)吹井田さんと、吹井田さんに甘い言葉を言ってほしくて病にかかった(振りをする)僕、池木翔斗の甘すぎる日々が始まったのだった。

 そして、甘すぎる日々はあっという間に過ぎ、





いちご:ダメダメダメー! 翔斗の甘い台詞は私のものなんだから! みんなはリクエストなんかしちゃダメー!!


 一年後、クソ雑魚モブレジェンドこと、僕、池木翔斗は、無事病が完治したらしい吹井田いちごと付き合っている。

 それまでに、図書館での勉強、初めての電話、運動会、合唱コンクール、文化祭、勿論、告白。色々あった。死ぬほど甘い台詞を言わされたし、言ってもらった。

 そして、今では学校の誰もが知るあまあまカップルとなっている。



いちご:ねえ、翔斗! 言って! 僕の甘い言葉はいちご専用だよって!


翔斗:今?


いちご:今、言わないと私死んじゃうかも!


翔斗:……僕の甘い言葉はいちご専用だよ。


いちご:にゅへへへ~♪ わたしも~。



 周りはいちごさんの甘い空気に砂糖吐いている。

 そして、教室の隅で、



兜:や、やめてくれ! 脳が……脳がぁあああ! 吹井田さんんんんんん!



 あまりの甘さにメンタル全虫歯になったのか頭を押さえる兜の姿が。



いちご:ねえ、翔斗。


翔斗:ん?


いちご:だいすき!



 糖分の摂り過ぎも心臓には良くない、死んじゃうかも。

 でも、こんなかわいい彼女にお願いされて断れる男がいようか、いや、いまい(反語)

 僕はストロベリーブロンドの髪に負けないくらい甘い声の彼女を見ながら、そう思った。

お読みくださりありがとうございます。


一応ボイコネライブ大賞用なので、締め切りに間に合えばですが、連載版(電話とか文化祭とか告白とかでのあまあまボイス話)も掲載できたらなあと。



少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


よければよければ、他の作者様の作品も積極的に感想や☆評価していただけると、私自身も色んな作品に出会えてなおなお有難いです……。


いいね機能が付きましたね。今まで好きだった話によければ『いいね』頂けると今後の参考になりますのでよろしくお願いします!

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