3.パーティーに向けて。
更新遅くなりました…が、続いております!
ピピピピッ、ピピピピッ。スマホのアラームが鳴る。友愛はむくりと起き上がり、アラームを止めた。午前6時30分、外はもう明るくなっていた。ん〜、と友愛は体を伸ばす。
(もう、朝か…)
眠れたようで、眠れていない。それほど、昨日のことが衝撃的だったのだ。一瞬夢かと疑ってみるが、夢ではないらしい。昨日帰ったあとには気が付かなかったが、スクールバッグの外ポケットに、見覚えのない紙切れが入っていたのだ。
「これ…」
友愛はぽつりと呟く。その紙切れには『何かあったら連絡しろ』というひとことと、電話番号を殴り書きしてあった。名前は書いていないが、圭吾のものだと友愛は察した。いつの間に、この紙切れを入れたのだろう?
(…電話をかけたら、出てくれるのかな?)
友愛はちょっとした好奇心を抱かせる。が、もしかしたら朝はめっぽう弱いかもしれない…と思い、その好奇心を心の奥底にしまった。案の定、その頃の圭吾はぐっすり眠っているのだが…友愛はそんなことを知らない。
友愛は時計をちらりと見る。6時50分だった。
「おとと…! それより早く学校に行かなきゃ」
友愛はいそいそと準備を始める。顔を洗い、朝食を済ませ、歯を磨く。いつものルーティンを着々とこなしていく。制服に着替え、スクールバッグを手に取ると、アパートを後にした。
「ゆーあ、おはよー」
教室に入ると、美香が寄ってきた。いつも通りの様子に友愛はほっとする。
「美香、おはよう」
スクールバッグを机の横にかける。美香は昨日と同じく、前の席に座る。
「ね、昨日の…結局どうなったの?」
美香が尋ねる。言わずもがな、例のバイトの話である。
「あー…あれね、バイト受けるの辞めたんだ」
友愛はこの嘘を突き通すことにした。口外するなと言われ、美香にはこれに関して話をすることができない。例え、親友だとしても。
「そうなんだ。受ける気満々だったから心配だったんだよ?」
美香はよかった~と胸を撫で下ろす。その様子は、本当に心から心配をしていた様だった。
「それよりゆーあ、1限目は移動教室だよ! 早く行こう!」
教科書を抱え、美香が言う。そうだった!と友愛は急いで準備をし、2人で教室を後にした。
「それでは、各自気を付けて帰るように。部活のある者は、そんなに遅くまで残るなよ~」
午後3時10分。全ての授業が終わり、ホームルームでが言った。担任の芳賀が全て言い終えると、生徒達はぞろぞろと教室から出ていった。
「ねね、ゆーあ! 今日さっちー達とカラオケ行くんだけど、行かない?」
美香が椅子をぐらぐらさせながら言う。さっちーとは、友愛と美香の中学時代の同級生で、柿沼 紗智のことだ。美香は時折体勢を崩しかけるが立て直し、再びぐらぐらさせる。
「ごめん、今週予定があって…」
友愛がパンっ、と手を叩き言った。そしてスクールバッグを手に取る。
「そうなんだ。また今度誘うね」
「うん、ありがとう。また明日ね」
友愛は美香に別れを告げると、そそくさと教室を後にした。廊下を歩き、ふと外を見る。太陽はまだ高くに上がっている。
(圭吾さんって、朝から夕方過ぎまでは、ずっと家の中にいるのかな?)
そんなことを気にする。夜しか出られないのなら、買い出しはどうしているのだろうか。
「そうだ。全然食べていなそうだったから、コンビニの唐揚げ買って行ってあげよっと」
友愛はそう言うと、軽快に廊下を小走りする。どこかで先生の廊下は走るな〜という声が聞こえてきたような気がするが、友愛は気にしなかった。
友愛はコンビニで買い物を済ませ、さっさか圭吾のお屋敷に向かう。昨日はおっかなびっくり歩いていたが、不思議なくらい、落ち着いて歩けていた。
そしてあっという間に、お屋敷の前に着いていた。
「圭吾さん、友愛です!」
インターホンを鳴らし、友愛は言う。少しして、カチャっと鍵の開く音が聞こえた。友愛はゆっくり、ドアノブを捻り、ドアを開ける。
「よお、来たか」
圭吾さんが玄関先に立っていた。昨日と同じく、ジャージ姿だ。昨日と違うのは、初めから玄関先に立っている、ということだった。友愛は少しビックリしてしまった。
「こんにちは…。あ、今日コンビニで唐揚げ買ったので、よかったら食べてください」
ドアをパタンと閉め、友愛はコンビニの袋を圭吾に渡す。圭吾は袋から唐揚げの入った紙袋を取り出すと、早速1つ、口にする。
「ん…。うまいな」
もぐもぐ食べ、圭吾が言った。
「わざわざ悪いな。昨日の、気にしていたのか?」
圭吾がそう問いかけると、友愛は頷いた。スクールバッグを床に置き、長い髪を1つにたばねた。
「はい…。あまり食べていなかったみたいなので…」
(あぁ…気を遣わせて悪かったな…)
頭をポリポリと掻き、圭吾はそんなことを思っていた。しかしながら、このようなものを食べるのはかなり久しぶりだった。
「私、掃除の方を進めますね」
友愛はそう言うと、階段を駆けていった。
圭吾は玄関先で唐揚げをただ黙々と食べている。
「コンビニの唐揚げは、こんなにうまいのか…。今度、澄美に買ってきてもらうか」
指に着いた油をペロリと舐め、圭吾は窓越しに外を眺めた。特殊加工をされた窓からは、外の光が遮断されている。
(…昼間に外に出ることが出来れば、こんなに時間はかからなかったかもしれないな……)
そっと、窓に手を添える。外の暖かさが少しだけ、窓越しに伝わってきた。
「外に出れば、色んな発見も出来るだろう…。あいつの情報も、もしかしたら容易く見つけられるかもしれない」
圭吾はグッ…と拳を握り、窓から離れる。今は自分に出来ることは何も無いと考えた。……そう、今は。
(今あるチャンスを、手放すわけにはいかない)
そう思い、圭吾は見上げる。2階からはゴトゴトと音がしている。友愛が掃除のために、家具を動かしているのだろうか。
圭吾はダイニングキッチンに向かう。椅子に座り、友愛が買ってきた唐揚げをまた食べ始めた。
しばらくして、2階から友愛が降りてきた。
「圭吾さん…?」
友愛はキョロキョロと辺りを見回す。玄関先に圭吾の姿はなかった。ふと、昨日ダイニングキッチンに行ったことを思い出し、そこに向かった。
ダイニングキッチンに入ると、圭吾が冷蔵庫の中を整理整頓していた。
「…友愛、どうした?」
友愛に気がつくと、圭吾は冷蔵庫を閉める。友愛は圭吾の元に向かう。
「掃除していた部屋にこれがあって。一応、拭いたんですけど…」
友愛が圭吾に差し出す。それは、写真立てだった。母親らしき人と、その人に抱かれる赤子。そして、3人の子供が母親の前に立っている。
「あぁ…道理で無いと思っていたら、あいつの部屋にあったんだな…」
写真立てを受け取り、圭吾が言った。圭吾のその顔は、懐かしそうで…でもどこか寂しげだった。
(この写真は、誰なんだろう…? 圭吾さんのご家族かな…?)
友愛はそんなことを考えていたが、先程の圭吾の顔を見て、どうしても聞く気になれなかった。
「見つけてくれてありがとうな。…これは1階に飾るとするか」
圭吾はそう言うとダイニングキッチンを出る。写真立てを、玄関の横の棚の上に置いた。
「それと…掃除は順調か?」
圭吾が友愛に尋ねる。友愛はこくりと頷く。
「はい、なんとか…。明日はシーツとお布団とかの洗濯をして、セッティングすれば終わりです。でも私が来てからの洗濯だと乾かないかもしれなくて」
友愛が俯きながら言う。その姿はまるで、自分の要領が悪くて…と言っているようなものだった。
「洗濯は俺がやっておく。部屋干しならできるしな。友愛は明日来た時に取り込んで、セッティングしてくれればいい」
テキパキと友愛に指示を出す。
「3日でここまで出来れば十分だろ」
「分かりました。ありがとうございます…!」
友愛はこの日はこれで帰宅をし、次の日も変わらず、放課後にお屋敷を尋ねた。圭吾が干してくれていたシーツや布団を取り込み、各々の部屋にセッティングする。
「ふーっ、終わった〜!」
友愛は腕を伸ばす。3日間に渡った掃除は、無事に終了した。部屋から出て、友愛は軽快に階段を降りる。すると、友愛が降りてきたのを察知したのか、圭吾が別の部屋から出てきた。
「お疲れさん」
友愛に歩み寄り、友愛の頭をポンポンとした。友愛は突然のことにビックリしてしまい、固まる。
「え、と…お疲れ様です」
(圭吾さんの距離感がイマイチ分からない…)
友愛は戸惑いを隠せずにいた。その様子を見て、圭吾はハッとする。
「すまん、特に意味はなかったんだが…」
パッ、と圭吾が手を離す。そして一瞬何か考えているようだったが、直ぐに首を振る。
「疲れただろう。少し休憩していけ」
圭吾が友愛をダイニングキッチンへと誘う。友愛は黙って従った。ダイニングキッチンに入ると、紅茶の程よく甘い香りが漂っていた。
「座れ」
圭吾に言われ、予め引かれていた椅子に座る。圭吾はティーカップを手に取り、慣れた手つきで紅茶を注いだ。
コトン、と友愛の前に紅茶が出される。
「わぁ…ありがとうございます…!」
友愛は目をキラキラと輝かせる。そのティーカップは、初日に友愛がうっとりと見つめていたティーカップだった。
すかさず、紅茶を1口。アチチ、となりながらも香りと味を楽しむ。
「おいしい…」
なんとも言えない、深い味わい。友愛はその香りと味に一層惚れていった。
「貰い物なんだ。あんまり飲む機会なくてさ」
圭吾は自分の紅茶を注ぎ、椅子に座った。ふーっふーっと紅茶に何度も息を吹きかける。
(圭吾さん、猫舌なんだ…)
圭吾の姿を見て、友愛はふふっと笑った。いつものぶっきらぼうな姿と違い、冷まそうとしている圭吾はとてもギャップを感じた。
「友愛、明日…来てくれよな」
紅茶を1口飲んだあと、圭吾が言った。なんでそこまで、友愛を誘うのかわからなかったが、友愛は頷く。
「はい…。学校が終わったら、すぐ来ますね。何か買ってきた方がいいものとかありますか?」
友愛が聞く。圭吾はうーん、と考える。
「昨日の唐揚げと…そうだな、また野菜炒め作ってくれ。それをパーティーに出そう」
「えっ? 野菜炒めを?」
友愛は思わず、反応をした。パーティーなのに、野菜炒めでいいのか…。
「あぁ。あいつはどうせ、肉しか持ってこないだろうからな」
紅茶を飲み終え、圭吾が席を立った。そしてささっと洗い物を済ませる。
「とにかく、何も緊張することはない。緊張するだけ無駄だ」
圭吾にそう言われ、友愛は戸惑う。
(初めて会う人なのに、緊張しない方が無理なんじゃないかな…? それに…相手は人間、なのかな…)
「あの、明日来られる…お相手の方って」
友愛は圭吾に聞く。やっぱり、それだけは知っておきたかった。
「あぁ、明日来るのは」
圭吾が口を開く。
「俺と同じ、ヴァンパイアだ」
友愛はやっぱり…と思いつつ、自分からこの仕事に首を突っ込んだ建前、多少気がかりでありつつも、全てを受け入れることにした。
読んでくださり、ありがとうございました。不定期になりますが、これからも投稿を続けていきます!