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第七話 二時間目は受けなくていい。ならば買い物だ。

 チャイムが鳴った。


 一時間目が終わり、十分の休憩の後、二時間目が始まる。


「むっ! 一時間目が終わりですね!」

「「……」」

「~……♪」


 ものすごく元気な様子の椿と、ぐったりしている様子の三人。


「はぁ、ツッコミ役が足りないわ」

「ぶっちゃけ途中から放棄したからな。それで、二時間目以降はどうする?」

「む?」


 宗一郎先生の言葉に首をかしげる椿。


「特待生クラスは基本的に、『受けたいときに受けたい授業を受けに来る』形式だ」

「自由度が高すぎですね!」

「どうしてそのようなことに?」

「そうしないと、『魔法省が特待生クラスに求めている基準を満たせない』からだな」


 学校側が決められた時間を使って教えるのではなく、生徒たちの自主性に委ねているということでもあるが、宗一郎がそれを問題視している様子はない。


 面接の段階で自主性の高い生徒たちが選出されている部分は少なからずあるだろう。そもそも。昨日ダンジョンに普通に潜っていたところを見ると、『現段階の実力でも言うほど問題はない』という結論ありきの可能性が高い。


「なんだか思っていたよりも期待されていますね」

「予算の掛けられ方が凄いからな。で、どうする? 一番最初に魔力と魔法に関する基礎を教えることは決まっているが、それ以降は生徒たちの自由だ」

「むうう……栞は何か受けたい授業はありますか?」

「教科書の内容なら全て理解してるわ」

「そうですか」


 頷く椿。


「……む? 分厚いのが三十冊近く家に届いたような記憶が……」

「全て理解したわ」

「なるほどです」


 それを為しえるほどのスペックが栞には備わっているというわけだ。

 信仰すら発生させる美貌と最強クラスの冒険者の素質がありながらこの頭脳である。天は二物を与えずというのは嘘っぱちだ。


 ……まあ、だからといって椿をどうにかできるわけではないので、結局世の中というのは馬鹿の大声で回っているということなのだろう。


「刹那はどうですか?」

「~♪」

「どうせ読んでも私がいると意味がないって、どういうことですか?」


 言葉通りの意味だと思うよ?


「……確かにそうね」

「むううっ! むううっ!」


 何を言えばいいのかわからないのか唸り声が出る椿。


「椿は受けたい授業とかあるの?」

「……私も特にないですね!」


 胸を張る椿。


「なら、学校を見て回ってもいいし、ダンジョンに行ってもいいな」

「うへへ~♪ また明日来ますね!」

「ああ。また明日。先生はこれから、予約を入れておいた飯屋に行ってくる」

「予約入れてたって……」


 二時間目以降がないことが分かっていたのだろうか。


「なら話は速いですね! 栞、刹那。今日はショッピングモールに行きますよ!」


 元気な様子で教室をピューーーッ! と飛び出す椿。


「……先生。また明日」

「~♪」

「ああ。また明日」


 刹那が何を言ったのかはわからないが、多分『また明日』でいいはずだ。


 ★


「おー……なんだかマニアックなところに来ましたね。思ったより人も多いです」


 雑多な部品をショーケースに並べているところに到着した三人。


 部品単位で売っているためか、大型の商品が少なく、小さな露店のようなものが並んだスペースとなっている。


 専門性がとても高い場所だが、そもそも高ランクの冒険者になれば『自分が使う手段の具体性』が上がるため、こういったエリアには需要があるのだろう。


「実際、部品一つにこだわる人にとっては重要だし、こういうのは通販サイトで見るよりも実物で見た方がいいわ」

「そういうものですかね?」

「椿は刀しか使わないからわからないだけよ。ただ、戦闘以外で使う魔法具に使う部品を揃える時にも使うわね」

「ほー……」

「あ、これ、なかなか市場に出回らないわよ」


 近くの露店に近づいて、ショーケースに並べられた直径二センチの歯車のような部品を指差す栞。


「なかなか出回らないんですね……こんな小さな部品一つの八千円!?」

「でもこれ、通販サイトでは六万円くらいの値段になるわ。この値段で採算取れてるの? これを作る素材、かなり高額よ?」


 栞が店のおっちゃんに聞いた。


「魔法省から援助金をたっぷりもらってるし、こういう場所で使う素材を集める冒険者と専属契約してるから問題ねえよ」

「あ、なるほど」

「というか、これくらいの値段にしねえと、生徒が手を出せないからな。実験的に使って失敗して、六万円が溶けたら嫌だろ?」

「確かに嫌ですね」


 専門性が高いということは、言い換えれば『本当にごく一部』の部品なのだ。

 ただ、組み上げるのに慣れない生徒もいるわけで、組み上げた後に学校内の施設で検査してもらうことも可能だが、それでも『なんかわからんけど全く動かない』ということも多々ある。


 しかし、挑戦してもらわないとどうしようもないので、このように値段が抑えられているわけだ。


「で、どうする。買ってくかい?」

「ええ、そうするわ」


 通販で六万円のものが八千円。

 詐欺を疑うレベルだが、そもそも栞自身、高度な鑑定スキルの持ち主だ。本物であることは分かるだろうし、躊躇する意味もない。


「ところで、その部品って何に使うんですか?」


 あの歯車を買った後、栞にとってめぼしい物はなかったようだ。


 マニアックゾーンを抜けるとフードコートがあったので、そこで椿はカツ丼、栞はかけうどん二玉、刹那はパフェを注文。


「主に……『暗視無力化』を突破するために使うわ」

「?」

「明かりのない洞窟、深い水底や巨大な森林の深いところとか、そういう場所は基本的に明かりの魔法を使うけど、『暗視』のスキルを使う場合もある。ただ、場所によっては、暗視の能力を無力化する力があったりするのよ」

「なるほど、それは重要ですね」


 人間はほとんどの感覚を視力に頼る生物だ。


 文明の利器を使えばそれらの障害はクリアできるわけだが、中にはその道具を無力化してくる場合もある。


 スキルに頼った準備をしていて、情報不足だった場合、そのような罠に引っかかって、何も見えなくなるという事態が発生する。


 自分のスキルや魔法を適切に発揮するための道具もまた存在するわけだ。


 便利な物、万能な物は冒険者界隈ではたくさんあるが、だからといって隙がないわけではない。


「その暗視無力化の魔法具を作るために使うんですね」

「かなり重要なパーツ……の付属ね。これがスナイパーとか、長距離射撃とかになってくると重要なパーツそのものと言えるわ」

「どれくらいのスペックがあるんですか?」

「この歯車のスペックを最大限に発揮できるとすれば、その魔法具の完成品は二百万くらいするわね」

「えっ!?」

「暗視無効の未開拓ダンジョンに挑むときに使うわけだけど、そういう場所に行きたがる人なんてほぼいないから希少性が高いのよ。初期投資としてそれくらい出す人もいるわ」


 ダンジョンに挑むということはそれ相応に長い年月の積み重ねがあるが、だからといって網羅性は高くない。


 普通に行ける場所、行けない場所、属性によって様々だ。


 ただその中でも、『真っ暗で何も見えないダンジョン』というのは、可能性の宝庫である。


「レアなものを得るためにはお金がかかるんですね……」

「まあ、私は魔法具の完成品と同じ魔法を使えるから、あんまり関係ないんだけど」

「あっはっはっはっは!」


 大笑いする椿。

 刹那は『これだから栞は……』と言った様子で苦笑しているが、これもいつも通りだろう。


「さてと、次に行きましょうか」

「そうですね!」

「~♪」


 食べ終わった三人は、別のエリアに向けて歩き始めた。

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