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第六話 アイツら学校来る気あんの?

「今日も学校に来ている生徒は君たち三人だけだ」

「どういうことですかあああ~~~っ!」

「ついでに言うと副担任は無断欠勤だ」

「何考えてるんですかあああ~~~っ!」


 一年零組の教室。

 そこには、椅子に座る三人と、教壇に立つ宗一郎先生しかいない。


 なんだかこれがデフォルトになりそうでかなりアレだが、もうこういうものだと受け入れてしまった方がいいかもしれない。

 それはそれでいろいろ終わっているが……仕方のないことだ。


「むううっ! むっ? 時差ボケが理由の生徒が二人いたはずですけど、なんで今日は来てないんですか?」


 海外にいて時差ボケするというのは、人間ならまあやらかすだろう。

 そもそも、一年零組になるような人間として、椿、栞、刹那の三人がいる以上、『独特な感性』をしているというのはよくわかる話。


 となれば、時差ボケくらいは普通にやる。


 ただ、時差ボケであっても、翌日には来れるのではないか。


「実際に家に行ってみたら、一人はぐっすり寝ていて、一人はちょうちょを眺めていた」

「学校に来る気あるんですかっ!?」

「私も分からん」


 よくそんな奴に高校生を名乗らせているものだ。

 自由な校風……いやこれに関しては、『校長先生の影響で大体何でもアリ』ということで納得していただくしかない。

 ……どうせ、生徒たちも椿にしか興味ないだろうし。いいだろ。うん。


「むうう。まあ来ていないのなら仕方がないですね」

「そうか」

「切り替え速いわね……」

「~♪」

「そういえば今日から授業があるって聞いてますけど……」

「ああ。もちろん、私が教えるぞ」

「うへへ~♪」


 何が嬉しいのやら。


 とまぁ……栞と刹那は椿についていく感じのようで、椿がそれでいいのなら良いということになるらしい。

 後でどうなっても知らんぞ。


 ★


 現在の冒険者たちが使っている武器は、基本的にファンタジーのRPGで見かけるものと大差ない。

 たまに高い運用コストが気にならない金持ちがSFに手を出していたりするのだが、魔法による強化があるので、剣を使っている者も多い。


 しかし、使っている武器や、それぞれの生徒たちがこれまでつかってきた技術。そして何でそれを習ったのか。


 それらを分類していくと、なかなか『汎用的な理論』はできないモノ。

 そのため、多くの冒険者学校の座学では、『ガチの基礎』と、彼ら彼女らが挑む『ダンジョン』について知識を深めることを重要視している。


 また、ダンジョンもまた個性がそれぞれにあるため、指導する部分の『応用』に関しては、それぞれの経験豊富な現場の教員と、魔法省の役員が直接議論して決定することになっている。


「……さて、二名ほど、釈迦に説法だろうが、魔法関連の基礎からやった方がいいかな」

「うへへ~♪ ……あれ、どういうことですか?」

「というわけで、今から質問するからそれに答えてもらおう」

「むっふふ~♪ なんでも答えますよ!」

「二つの攻撃魔法が衝突した時、その勝敗を分ける最大の要素は何か。漢字二文字で答えて」

「……『気合』です!」

「違うわ。というか、今の時代、小学生でも知ってるわよ」

「~♪」


 溜息をつく栞といつも通りの刹那。


 ……どうやら、こういう返答をするのがデフォルトらしい。


「……あれ? なんでしたっけ?」

「答えは『安定』よ。魔法と魔法が衝突した場合、より『安定』している方が勝つ。これが現代の魔法の理論よ」

「~♪」

「むむ、確かに昔に聞いたことがありますね!」

「どんな本でもそれを前提として書かれてるはずだが……」


 椿って普段、どんな本を読んでるんだろう。


「むう、そうですか?」


 椿は自分が持ってきた鞄を取り出してガサゴソ探り始めた。


「これです! ……あ、間違えました」


 タイトルが『メイドの胸を揉むときの三つの鉄則』と書かれているから確かに違うだろう。


「ちょっと待って、その本、誰が入れたの?」

「私の鞄の準備をしているのは毎回セフィアさんですよ」

「……」


 メイドが主人の娘に勧める本ではない。とだけ突っ込ませていただこうか。


 さて、それはそれとして、ガサゴソと探る。


「これですね!」


 タイトルは『朝森椿でもわかる現代魔法基礎』である。


「「……」」

「~♪」


 三人はツッコミを放棄した。


「えーと……あ、確かに『安定がめっちゃすごく大切』って書かれてますね」

「書いたの誰?」

「著者は……あれ、『鈴木智花(すずきともか)』って誰ですかね?」

「先生の嫁だな」

「「!?」」

「~っ♪」


 世間は狭い。


「先生って結婚してるんですか!?」

「高給取りのアラフォーだからな」

「そうなの……」

「~♪」

「まあそれはそれとして、『安定』という要素が大事だ」


 軌道修正を図る宗一郎。

 そろそろ脱線が激しいので仕方がない。


「時々『頑丈』と間違われることも多いが、魔法学だと、頑丈は『物質的』、安定は『領域的』な話として扱われる」

「例えば、岩を作って飛ばす魔法の場合、岩が固い方が衝突した時に形を保つことができる。これが『頑丈』ね。ただ、岩が存在する『領域』そのものの魔力が安定していると、小さくて脆い小石を飛ばしたとしても、頑丈なだけの岩を砕くことができる。これが『安定』が重要とされる意味よ」

「なるほど! わかりました!」

「『どんな物質を作り出したか』ではなく、『その領域に存在する魔力の質』によって勝敗が決まる……ともいえるが、まあこれはいいか」


 具体例があることで納得している椿だが、正直、反射的に『気合』と答えるような馬鹿の頭にちゃんと残るのか凄く不安。

 というか、これまで何度も説明されているはずなのに出てきた言葉が『気合』なので、どうしようもない。


「まあでも、『安定』を『気合』で生み出せるのなら、『気合』でも間違いはないですね!」

「……はぁ」


 溜息をついたのは宗一郎。

 訂正しないところを見ると、『魔法の行使』と『精神性』には少なからず因果関係があるのだろう。


「完全に不正解と言えないのよね。それ」

「~♪」


 ドヤ顔の椿と苦笑気味の三人という結果に。


 そりゃそうだ。結局『気合』でどうにかなってしまうのであれば、ポジティブシンキングのやつが強いという結論になってしまうからだ。

 まあ、だからこそ椿が強いということになるので、良い得て妙というか、馬鹿馬鹿しいことほどこの世の真実というか。残念な話である。


 もちろん、『頑丈』に意識を向けるのと『安定』に意識を向けるのは大きく違うことなので、『気合の入れ方』によってはライターみたいな火に全力の魔法が負けることもあるだろうが……あまり慰めにならない。


「……ちょっといいかしら」

「なんだ?」

「授業って、このテンポでいいの?」

「椿がいる時点でまともな授業にならない。そもそも説明して君たちの足しになる理論はかなり限られている。オーケー?」

「オーケーよ」


 この時点で、栞は『一年零組』の理念がかなり大雑把でヤケクソなのだということを理解した。


 椿がいる時点で大体そうなるものだが、それでいいのか沖野宮高校。


「む? 今ってどういう空気ですか?」

「椿は可愛いわねってことよ」

「~♪」

「む? ……むふふ~♪ うへへ~♪」


 何が楽しいのか元気そうな椿。


 ……なるほど、これでまともな授業は無理だ。諦めた方がいいというのは正しい結論である。

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