まだ君は来ないのだから。
………時間が過ぎていく。少しずつ、確実に、冷淡に。
あの子どうしたんだろ。泣いているし、1人……?迷子……かな。声かけてみようか、うん。どうせまだ来ないんだろうから。
「どうしたの?」
ダメだ泣いてて、聞こえてないのか、答えられないのかな?
「泣かないで?」
私の声は聞こえない。
どこの誰かもわからない人に声をかけたのが間違いだったのかな。
いや、そもそも人って認識してよかったのかな?
「ひと」って言うより、「ヒト」だった。
急に命の価値が下がった気がした。
私が困惑しているとその人は自分から口を動かした。ふとそれに面白さを感じた私はきっと狂っているに違いない。
「おか……あ……」
1音、1音そしてまた1音。
確実にはっきりそれから発せられる音を読み取って日本語に変換していく。こんなところまでも外国語の勉強しなきゃならないのか。
「お……か……あさ……んが……」
「おかあさん」がどうしたと言うのだろう。
ふと出た好奇心を押し殺していると、それはまた泣き出してしまった。まぁ大抵こう言うときは迷子だろうけど。私は言ったのだった。
「おかあさんいないの?はぐれたんだね。一緒に探してあげる。」
どうせまだ来ないんだから。「ヒト」
が「うん」って言って頷けば、それはもう「人」になっていた。
街並みを歩いていく。ゆっくり、ゆっくり。
いっぱい話しをする。たくさん、たくさん。
ひとつひとつにこの子が答えて、私が問うた。私が答えて、この子が問うた。
次第とこの子は泣き止んだのだった。
「お姉さん!」
「ん?」
お姉さん……。お姉さんかぁ、悪くない。
「どうしたの?僕。」